鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
 二人の関係が少しだけ進展し、仕事にも、コンテストにも自然と精が出る梢。あれから、孝仁との距離も少しずつ縮まっていて、恋も仕事も順調。すべてが上手くいっているように思えた。

 しかし、そんな梢の心を大荒れにする特大の嵐は、前触れもなく唐突に襲い掛かってきた。


 週半ばの水曜日、マーケティング部の部屋に残って仕事をしているのは梢ただ一人。少し前まで孝仁も残っていたが、つい先ほど帰宅してしまった。

 静かな空間に、梢のタイピング音だけが響く。自然と集中力が高まり、作業のペースも上がるが、視界の端に映り込んだなにかに邪魔をされてしまった。

「ねえ、宮沢さんはどこにいるか知ってる?」

 視界に映った正体――平川彩芽が梢の方に近づきながら問いかけてくる。

「……宮沢部長は先ほどお帰りになられました」
「そう、それは残念。すれ違いになったみたいね。教えてくれてありがとう。えーと、牧野さん」

 社員証で梢の名前を確認しながら、礼を言う彩芽。意外に律儀な人なのだなと驚いたのもつかの間、彩芽の様子に不安を覚える。

 彼女はこちらをジーっと見つめ、なにやら難しい表情をしている。

「あの……?」
「ふーん、あなたが牧野さん」
「そうですが……?」

 物言いたげな彩芽に、さらに不安が強くなる。

 最初の様子からして、梢の顔は知らなかったようだが、『牧野梢』という人間は認識しているらしい。しかし、その理由がわからない。これまで彩芽と直接関わった記憶はなく、梢が一方的に知っているだけだと思っていた。

 おそらくは仕事上のことで梢を知る機会があったのだろうが、孝仁との噂の件があるせいで、妙に胸騒ぎがしてしまう。
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