鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
「まあ、どう思っててもいいんだけれど。もしも変な期待をしているなら、時間の無駄だからやめておきなさい。彼はね、いずれ私とともにこの会社を引っ張っていく人なの。近い将来、婚約を発表することになると思うわ。早急に諦めるのがあなたのためよ」
「えっ……でも、部長は」

 自分と付き合っているのだと言いそうになって、慌てて口をつぐむ。彩芽の言っていることは受け入れられないが、ここで思うままに発言するのはまずい。

 梢の気持ちは勘づかれているようだが、まだ孝仁との交際を知られているという確証はないのだ。ここでうっかり漏らしてしまえば、厄介なことになりかねない。反論したい気持ちをグッと堪えた。

 そうして途中で言葉を止めたからだろう。彩芽は勘違いしたらしい。梢がショックを受けて黙り込んでしまったと。

「ああ、落ち込まなくても大丈夫よ。ただ相手が悪かっただけ。私が特別なだけよ。すべてを兼ね備えた私に敵わないのは当然のことなの。だから、気持ちを切り替えて、次の恋を頑張りなさい」

 随分勝手なことを言われているが、彩芽のあまりの自信の強さに呆気にとられてしまう。ここまで突き抜けたことを言われると、不快な気持ちになるどころか、いっそ清々しいとすら思えた。

「それから、あなたもコンテストの入賞を狙ってるようだけど、あのレベルの企画書では難しいと思う。少なくとも私に勝つことはできないわ。まあ、挑戦はいいことだから、勉強だと思って頑張りなさい」

 そこまで言うと彩芽はもう用は済んだとばかりに背を向けて去って行く。彼女はドアの前で一度立ち止まったものの、「それじゃあ」と言ってひらひらと手を振り、すぐにその姿を消した。

 残された梢の心はひどく荒れていて、もはや仕事どころではない。それでも必要な分だけはどうにか終わらせて会社を出た。

 梢は孝仁とのことを考えながら帰途につく。

 しかしながら、その足は自宅へは向かってくれない。気づけば、孝仁のマンションの前に立っていた。
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