鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
「はっ! まさか部長を家まで送れってこと……?」

 彼らはグランルヴェールまで送れと言っていた。孝仁の家がどこかは知らないが、グランルヴェールに住んでいるということではないだろうか。

 つまり、酔って自力で帰れない孝仁を家まで送れと頼んでいたのではないだろうか。

 それを理解した途端、腹の底から驚きの声が漏れ出た。

「ええっ!? 嘘でしょ。あり得ない……絶対、部長と関わるのが嫌で押しつけたんでしょう、これ。信じられないっ」

 大きくかぶりを振る。状況は理解できても、それを受け入れられるかどうかはまた別の話だ。

 マンションを知っているからといって、いきなり梢に託すのは間違っているだろう。大体、酔った男性を女性一人に送らせるとはどういう了見か。常識的に考えてあり得ない。

 だが、そのあり得ないことが起こってしまうくらい、今の状況が異質ということなのかもしれない。

 鬼と呼ばれる男が酒に酔うなど、きっと誰も想像していなかったはずだから。

 押しつけてきたやつらには恨み言の一つでも言ってやりたいが、ひとまず孝仁のことは梢がどうにかするしかない。

 せめてタクシーが拾えたらと、道路を見渡してみるが、それらしき車は見当たらない。一度、大通りまで出て探した方がいいのかもしれない。

 孝仁を背に、そのようなことを思案していたら、いつの間にやら孝仁はふらふらと一人で歩き始めていた。

「わーっ、部長待ってください! 危ないから一人で歩かないで!」

 すかさず駆け寄り、孝仁の肩を支える。梢一人の力ではあまり支えにはならないかもしれないが、ないよりかはマシだろう。

 本当はこのままタクシーを探しに行きたいが、酔っている人間を誘導するのは難しい。

 結局、梢はマンションまでの道のりを、孝仁を支えながら歩いて行くしかなかった。
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