鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
 慌てて周囲をきょろきょろと見回すも、梢と孝仁以外、この場にはもう誰も残っていない。皆、帰るなり、二次会に行くなりしてしまったようだ。

 梢と一緒に残された孝仁はというと、頭を押さえたまま、微動だにせず突っ立っている。

「ぶ、部長?」

 恐る恐る孝仁の顔を覗いてみれば、彼はいつも以上に強く眉根を寄せ、しかめ面をしている。とても機嫌が悪そうだ。

 触らぬ神に祟りなしと言うし、このまま適当に挨拶をして、さっさと帰ってしまいたい。

 そもそもなにを頼まれたのかもよくわかっていないのだ。自分がいても意味はないのではないかと思う。

 だが、このまま放置するのも、それはそれで後が怖い。とりあえず帰宅していいかだけ尋ねてみようか。

 そのようなことを考えていれば、突然動き出した孝仁が大きくよろめいた。

「危ない!」

 咄嗟に孝仁の肩をつかんで支える。倒れてしまわないよう精一杯踏ん張るが、自分よりも体格のいい人間を支えるのは難しい。梢までよろめきそうになる。

 このままではまずいと焦るが、すんでのところで孝仁が自立してくれたから、どうにか二人とも倒れずに済んだ。

 孝仁はまた頭に手を当てて、苦しそうな表情をしている。

「嘘……もしかして酔ってるの?」

 先ほどは気づかなかったが、孝仁の顔をよく観察してみると、顔全体が赤くなっている。あの鬼が酒に酔うなど、今の今まで考えたこともなかったが、これは紛れもなく酔っている証拠だろう。

 あまりに非現実的な光景に一瞬思考が停止しかける。だが、酔っているという事実が判明したことで、梢は自分がなにを頼まれたのかにようやく気づいた。
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