鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
「ほう、報酬があれば、やる気が出るのか」

 ブンッと音がしそうなほど勢いよく振り返る。梢の瞳はすぐに冷たい表情の孝仁を捉えた。

「っ!? ぶ、部長……」

 いつの間に現れていたのだろうか。まったく気配を感じなかった。だが、孝仁の台詞からして、梢が不満を漏らしていたときにはすでに後ろにいたのだろう。

 よりによって、一番聞かれてはまずい人に愚痴を聞かれるとは、今日はほとほとついていない。

 慌てて篠田に視線を戻せば、彼女は軽く手を合わせて謝罪のポーズを取っている。どうやら孝仁の存在に気づいていたようだ。先ほど篠田が困った表情をしていたのは、孝仁の存在をどう知らせようかと悩んでいたのかもしれない。

 篠田のサインに気づいていれば、まだ助かる道もあったのかもしれないが、さすがにこの状況に至ってはもうどうにもならない。

「いや、そのー……ちょっと言ってみただけというか……冗談というか……あはは」

 冷や汗が止まらない。絶体絶命の危機に、苦し紛れの乾いた笑いを浮かべることしかできない。

「言ってみろ」
「……えーと、なにをでしょう?」
「どんな報酬があれば、やる気が出るんだ?」

 皮肉で訊いているとしか思えない質問に震え上がる。きっとどんな答えを返しても、叱責を食らうに違いない。

「ですから、今のは冗談で……」
「いいから言いなさい」

 逃がさないとでも言わんばかりに、鋭い視線が飛んでくる。冗談で済ますことは許されないようだ。

(ひぃっ! なんて答えればいいの……!?)

 孝仁のこの様子だと、なにか答えるまで逃がしてはくれなさそうだ。とはいえ、正解があるとは思えない問いになんの答えも思い浮かばない。

 報酬とはなにか、自分が嬉しいものはなんなのか。ひたすらぐるぐると考え続けた結果、脳裏にちらっと浮かんだある存在を回答として導き出してしまった。
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