鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
「ああ、それから」

 その言葉とともに、孝仁はドアの前で立ち止まり、こちらへと振り返る。

 解放されると思って気を抜いていた梢は慌てて気を引き締め直した。

「君は自分の力でどうにかしようとする節があるが、一人では限界がある。アドバイスを求めることも仕事のうちだと覚えておきなさい」

 孝仁は梢の反応を待たず、言うだけ言って去って行く。実にさらっと言ってくれたが、受け止める側はさらっと流せない。

 最後の最後に強烈な変化球を投げるのはやめてほしい。孝仁からの苦言には慣れているが、優しい言葉には慣れていない。変な汗が吹き出してしまう。

 少し皮肉めいた言葉に聞こえなくもなかったが、今のは間違いなく梢を思っての言葉だろう。困ったときに、素直にアドバイスを求められるよう、言い添えてくれたのだとわかる。

「きゅ、急にいい上司らしいこと言っちゃって……わ、私は、こんなことで絆されませんからね……!」

 自分以外誰もいない会議室で、鼻息荒く主張する。

 これまで知らなかった孝仁の側面がちらちらと見え隠れしているせいか、孝仁に対する評価が安定しない。どうにも心が騒がしい。

 室温が一定に保たれているはずの室内で、梢はパタパタと手で顔を扇ぐ。そうやって顔の火照りを抑えておかないと、本当に絆されてしまいそうだった。
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