鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
「おい、牧野」
「っ! は、はいぃ!」

 軽く上に跳ねながら立ち上がる。そのあまりの勢いに、椅子は後ろに吹き飛んでしまった。

 ただ名を呼ばれただけにしては大袈裟な反応。だが、今の今まで見つめていた相手と唐突に目が合ったのだ。驚かずにはいられなかった。

 しかしながら、本当に驚いたのは周囲の同僚たちの方だ。皆、なにごとかと梢を見ている。

 とても気まずい。梢は同僚たちにぺこぺこと頭を下げながら、そそくさと孝仁の前へと移動した。

「先ほどから視線がうるさいぞ。言いたいことがあるなら、はっきりと口で言え」

 ギクッと身をすくめる。

(ヤバいっ、気づかれてた!? 少しも視線は合ってなかったのに……)

 まさか孝仁を見ていたことがバレていようとは。梢は焦りから視線を彷徨わせる。

(どうしよう……ただなんとなく見てただけで、言いたいことなんてないよ……)

 孝仁を見ていたのは、ただ自然と目を奪われてしまったからだ。なにか目的があったわけではない。だが、バカ正直に事実を伝えるわけにもいくまい。

 梢は脳をフル回転させて言い訳を考えるが、焦っている状況ではなにも思い浮かばない。一人であわあわとしている間に、孝仁の眉間には深いしわが刻まれてしまった。もう一刻の猶予もない。
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