至上最幸の恋
 誰かに感化されたくない。自分の絵が描けなくなる気がする。そうやって、ずっと人を遠ざけてきた。

「瑛士さん?」

 つい無言になってしまったオレの顔を、エリサが覗き込んでくる。だから近いんだよ。

「私、なにか変なことを言いましたか?」
「ああ、ずっと変なことを言っているな」
「変なことを言う女は、お嫌いですか?」

 不安げな表情で見つめられる。
 この歌うような独特の喋り方も、耳に心地いい。エリサの話なら、ずっと聞いていられそうだ。

「嫌いではねぇよ」
「本当ですか?」
「感性が豊かな人間は、だいたい変なことを言うしな。おもしろいよ」

 昔の自分なら、こんな言葉は出てこなかっただろうな。

 世界中を旅するうちに、人に興味が湧いてきた。そして人と関わることで、自分の幅が広がるのだと分かったんだ。

「おもしろい……それは、お好きということですね?」

 今度は、嬉々とした様子で詰め寄られる。ポジティブだな。

 問いかけには答えず、さりげなくベンチの端へ下がりながらココアクッキーを手に取った。いま口を開くと、墓穴を掘りそうだ。

「ココアが一番お好みでしたか?」

 オレが質問を無視しても、エリサは笑顔を崩さない。こだわりがないのか、それとも気を遣っているのか。
 いずれにしても、一緒にいてまったくストレスは感じなかった。
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