至上最幸の恋
 完璧を求めれば求めるほど心がすり減る。そして自分の首を締めて、道を見失う。そういう人間を何人も見てきた。
 
 目指すことと、そこに固執することはまったく違う。オレはいい師と出会えたから、そのことに早く気づけた。
 
「完璧ではないからこそ美しいものが、世の中にはたくさんある。未熟なら未熟なりの魅力ってのがあるもんだ」

 これは師の言葉だが、いまのエリサに伝えたくなった。

「だから、そんなに気落ちすることはねぇと思うけどな」

 つい励ますような言葉をつけ加えてしまった。彼女の苦労を知らない人間が言うのは、無責任じゃないか。

 そう思ったが、エリサは素直に受け取ってくれたようだ。

「ありがとうございます……ありがとうございます! 一気にエネルギーが湧いてきましたわ!」
「そうか。そりゃあよかった」

 本当に真っすぐだな。
 彼女が奏でるピアノも、きっと澄んだ音色を響かせるのだろう。ウィーンを発つ前に、聴く機会があればいいが。

「暗くなってきたな。もう帰ったほうがいいんじゃねぇか?」

 もうすっかり日が暮れてしまった。エリサが作ってきてくれたクッキーは、すべて食べ尽くしている。

「……時間が経つのが、とっても早いですね」

 落胆の色を隠すことなく、エリサが言う。
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