至上最幸の恋
うたかたのとき
 今日は朝から雨が降っている。そのせいか、春から冬に引き戻されたように、空気がひんやりしていた。

「心配ないよ、昼からは晴れるらしいから」

 ホテルの部屋で外を眺めていると、ラウロが声をかけてきた。

「天気の心配はしてねぇよ」
「そうかい? しきりに空模様を気にしているように見えたけどな」
「別に」

 雨が降っているなら、エリサを待たせないよう早めに待ち合わせ場所へ向かおうと思っていただけだ。

 しかしテレビの天気予報によると、昼前には雨が上がるらしい。傘は不要だな。
 
 この国では、傘を使う人間は少ない。
 いや、オーストリアだけでなく、日本以外の多くの国では、ちょっとの雨では傘などささない。軒下を歩いて雨を避けたり、ウィンドブレーカーで対応したりする。

 エリサはどうなのか。郷に入っては郷に従えで、小雨程度なら傘を使わないのだろうか。

「イタリア人も、傘を使わないよな」

 カメラの手入れを始めたラウロに話しかける。

「そうだね。イタリアは雨が長時間降ることは少ないし、なにより傘なんて邪魔な物を持ちたくないんだよ」
「濡れるほうがマシってわけか?」
「当たり前だろう」
「信じられねぇな。オレは濡れるほうが嫌だね」

 いつもスケッチブックを持っているので、それが濡れるのは避けたかった。
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