至上最幸の恋
「いま、名前を呼んでくださいましたか?」

 そう言われて、ようやく気がついた。彼女の名前を呼んだのは、これが初めてだということに。

「あぁ、まぁ、呼んだな」

 なぜか照れが先行して、ついぶっきらぼうな言い方をしてしまった。いい歳をして、なにをやっているんだオレは。

「嬉しいです! なんだか、自分の名前が特別なもののように感じますわ!」

 無邪気に喜ぶ姿を見て、胸のあたりがむず痒くなった。

 エリサという音の響きは、彼女によく似合っていると思う。濁りがなく涼やかで、少女のように瑞々しい。きっと、大きな愛情を込めて名づけられたのだろう。
 
「……いい名前だと思うよ。日本でも、違和感はないだろうしな」
「ありがとうございます。日本の方からも呼んでもらいやすいようにと、父がつけてくれました。とても大切で、大好きな名前です。たくさん呼んでくださいね」

 オレは曖昧に頷いて、紅茶をひと口飲んだ。

 女性をいきなり呼び捨てにすることには、抵抗があった。それなのに自然とエリサの名前を口にしてしまったのは、きっとここがウィーンだからだ。そう思うことにしよう。

 エリサと一緒にいると、いままでにない感覚が次々に湧いてくる。

 正体の掴めないこの感覚を、なんとか形にしてみたい。そう思って、エリサにある依頼をすることにした。
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