至上最幸の恋
「ひとつ頼みがある」

 ザッハトルテをゆっくり味わったあと、話を切り出した。

「はい、なんでしょうか?」
「絵を描かせてくれないか?」

 エリサが目を瞬かせる。

「私の絵……ですか?」
「ああ。エリサの、いろいろな表情や動きを描かせてほしいんだ」

 人体デッサンは数え切れないほどしてきたが、特定の誰かを描きたいと思ったのは、これが初めてだ。

 彼女のモチーフとしての魅力がそうさせるのか。それとも、別の理由があるのか。それを確かめたかった。

「私でよろしいのでしょうか? とても嬉しいのですが、絵のモデルなんて初めてで……」
「そんなに構えなくていいよ、何時間も動くなとか、無茶なことは言わねぇし。こうして会話しながら自然な表情を見せてくれたら、それでいい。あと、写真も何枚か撮らせてもらうけど」

 突然の頼みごとに戸惑っているのか、エリサは少し俯いてもじもじしている。そういう仕草や表情も魅力的で、無性に描きたくなった。

「ダメか? 持ち合わせがなくて、モデル料は払えねぇんだけど……」
「そんな、モデル料なんていただけません! あの、私でよければ、ぜひ瑛士さんに描いていただきたいです!」

 テーブルに両手をついて、エリサが勢いよく立ち上がった。驚いた周りの客の視線が突き刺さる。
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