至上最幸の恋
「あ、あ、あの、瑛士さん」
「絵の基本は、モチーフをよく観察することだからな。慣れてくれ」
「は、はい」
「ほら、正面向いて」
「分かりました!」

 再び前を向いて、エリサが姿勢を正した。
 切り替えが早くて助かる。もう、オレの視線を意識しすぎる様子はない。

「……ファッションモデルに向いていそうだな」
「私がですか?」
「ああ。スタイルと姿勢がいいし」

 ファッションモデルの仕事は、あくまで服を引き立てることだ。自己主張が強すぎるのもよくない。エリサは目立つ容姿の割に控えめで、なにより表現力がある。モデルにはぴったりだと思った。

「お洋服は好きですよ。ファッション誌も、よく読みますし」
「ピアニスト兼モデルってのも、なかなかいいじゃねぇか」
「ピアニスト兼モデル……」

 軽い世間話のつもりで言っただけだが、エリサは真剣な表情で呟いた。

「もし私がモデルになったら……」
「ん?」
「い、いえ! なんでもありません。それより、こんなふうに話していても大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ。目はしっかり観察しているし、手も動かしているから」

 そのあとも、こんな調子で雑談を交えながらエリサを描き続けた。
 横顔だけでなく、正面や立ち姿など、いろいろな構図を頼んだが、やはりエリサはモデル向きだ。
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