至上最幸の恋
 切り取る表情のひとつひとつに惹き込まれ、思わず見入ってしまう。夢中で鉛筆を走らせたものの、彼女の美しさを表現できる自信はなかった。

「風が気持ちいいですね」

 目の前に立っているエリサが背伸びをする。そして、なにかのメロディを口ずさみはじめた。

「どこかで聴いたことがある曲だな」
「フランツ・リスト作曲の、愛の夢。いただいたオルゴールの曲です」

 なるほど。雑貨屋の店主が、女性への贈り物に相応しいと言った理由が分かった。えらくロマンチックなものをプレゼントしてしまったな。

「大切に、大切にしますね」

 両手を胸の前に合わせて、エリサが微笑む。その姿があまりにも綺麗で、手が止まってしまった。

 オレなんかが、この美を描いてはいけないのではないか。
 一瞬そんな想いが頭をよぎったが、すぐに振り払う。それに挑むのが画家の道だ。そう強く思うしかない。

 翌日も、その翌日も、エリサを描いた。

 紅茶を飲みながらひと息入れたり、彼女の学校の話を聞いたり、日本画の話をしたり。互いを知りながら過ごす時間は、とても有意義だった。

「実は、最近少しだけ落ち込んでいましたの。私には、ピアノの才能がないのかもしれないって」

 一段落ついてベンチで紅茶を飲んでいるとき、エリサがぽつりとこぼした。
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