至上最幸の恋
「未熟なら未熟なりの魅力がある。瑛士さんはそう仰ってくださいましたが、やっぱり私の技術では、心に届く音を奏でるのは無理なんじゃないかって……」

 まだ10代の少女だ。浮き沈みの中で、必死にもがいているのだろう。
 
 その姿が、自分と重なる。
 絵が売れなければ生活はできない。だが、大衆におもねるようなものは描けない。

 受け入れられない不安と、ただ理想の美を追い求めたい気持ちの間で、常に揺れ動いている。

「人の心へ届けるのに、きっと高度な技術なんていらねぇよ」

 エリサが、じっと見つめてくる。なんとなく顔を逸らして、遠くを眺めた。

「鳥のさえずりを聴いて曲を思い浮かべるとか……きっとそういう心の動きのほうが大事なんだよ」

 誰に向けた言葉なのか。きっと、自分に言い聞かせているだけだ。

 彼女になにかを言う資格なんて、オレにはない。こんなしがない画家には。

「はい……はい。ありがとうございます」

 それでもエリサは、目に涙を浮かべながら笑ってくれた。

 それが、彼女と過ごした最後の時間。翌日から、エリサは公園に来なくなった。

 なにかあったのかもしれない。しかし連絡手段がない。2日間待っても、姿を見せることはなかった。

 結局、ここまでの縁だったのだろう。
 そう言い聞かせて、ウィーンの思い出が詰まったスケッチブックとともに、オレは日本へ帰国した。
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