至上最幸の恋
1992年・東京
なんとなく重苦しい。世の中は最近、そんな感じだ。
高級ブランドを身につけた女性が街を闊歩し、ディスコ通いで終電を逃した人々は、万札を振ってタクシーを止める。
そういう浮かれきった光景が嘘だったように、いまの日本は閉塞感に包まれていた。
企業の倒産やリストラが増え、消費も低迷。金が無限にあるかのような錯覚の中で華やかな遊びに明け暮れた時代は、もう終わったんだ。
こんなご時世に、高い金を出して絵を買う酔狂な人間などいない。画業だけで生活できるわけもなく、オレは運送会社で働きながら絵を描く日々を送っていた。
「いつもありがとうございます」
荷物の配達と集荷を済ませると、事務員が深々と頭を下げる。
ここは毎日配達している企業だが、対応してくれる担当者が、最近若い女性に変わった。
ただの異動かもしれない。だが中高年の社員がいなくなると、頭に浮かぶ単語は「人員整理」だ。
「まだ伝票はありますか? 前の人が、そろそろなくなると言っていましたけど」
「えっと……どうだろう。すみません、まだ勝手が分かっていなくて」
「とりあえず、明日100枚持ってきます」
前の担当者は、50代くらいの女性だった。
荷物の対応をしながら世間話をしているとき、独り身で仕事しかやることがないと言っていたが、彼女もこの不況の波に飲まれてしまったのだろうか。
高級ブランドを身につけた女性が街を闊歩し、ディスコ通いで終電を逃した人々は、万札を振ってタクシーを止める。
そういう浮かれきった光景が嘘だったように、いまの日本は閉塞感に包まれていた。
企業の倒産やリストラが増え、消費も低迷。金が無限にあるかのような錯覚の中で華やかな遊びに明け暮れた時代は、もう終わったんだ。
こんなご時世に、高い金を出して絵を買う酔狂な人間などいない。画業だけで生活できるわけもなく、オレは運送会社で働きながら絵を描く日々を送っていた。
「いつもありがとうございます」
荷物の配達と集荷を済ませると、事務員が深々と頭を下げる。
ここは毎日配達している企業だが、対応してくれる担当者が、最近若い女性に変わった。
ただの異動かもしれない。だが中高年の社員がいなくなると、頭に浮かぶ単語は「人員整理」だ。
「まだ伝票はありますか? 前の人が、そろそろなくなると言っていましたけど」
「えっと……どうだろう。すみません、まだ勝手が分かっていなくて」
「とりあえず、明日100枚持ってきます」
前の担当者は、50代くらいの女性だった。
荷物の対応をしながら世間話をしているとき、独り身で仕事しかやることがないと言っていたが、彼女もこの不況の波に飲まれてしまったのだろうか。