至上最幸の恋
 鬱々とした気持ちで営業所に戻る。
 そしてトラックを置いて、食事に出かけることにした。

「よう、お疲れさん」

 店のドアを開けると、若い男がカウンターから声をかけてきた。

「相変わらず客がいねぇな」
「お前の来るタイミングが悪いんだよ」

 東都藝大近くにある、純喫茶コレット。営業所からも歩いて5分ほどなので、昼食はほとんどここで食べている。

 マスターの柳町(けい)は、高校の同級生だ。
 なぜか初対面から馬が合って、ふたりでよく授業をサボったり街でナンパをしたり、いろいろと悪いことをしたものだ。親友というよりは、悪友か。

 もともとこの店は、彼の両親が営んでいた。しかし両親の引退を機に、慧はあっさり脱サラして、気ままな喫茶店マスターへと転身した。

 大学卒業後に就職した一般企業ではトップセールスマンとして活躍していたというのに、その立場を捨てるのは無謀に思えた。
 ただ慧の両親はもともと資産家なので、店が繁盛しなくても問題ないのだろう。
 
「今日も配達は多いのか?」

 言いながら、慧がオレの目の前にカレーを置いた。毎度のことなので、注文はしていない。

「ぼちぼちだな」
「ちゃんと絵を描いているならいいけどな。お前が有名になってくれないと、この絵の価値が上がらないだろ」

 慧が目を向けた入口脇には、宮城にある瑞巌寺の絵が飾られていた。昨年、慧が店を引き継いだタイミングで描いて、プレゼントしたものだ。
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