至上最幸の恋
 律はリアリストなので、オレが画家として大成するとは思っていないらしい。副業のように捉えているのだろう。

 オレからすれば、こちらが本業だ。ドライバーの仕事を始めたのは高い画材費を稼がなければならないから。求める絵を、とことん描くためだ。
 
 律に理解してもらえなくても、オレのスタンスは変わらない。画家として、理想の美を追い続けるだけ。

 そう思っているのに、小骨が喉に刺さったような感覚が続いている。きっと、こんな時代のせいだ。そう思ってしまう自分が、情けなかった。

 何の気なしに、過去のスケッチブックを手に取る。しばらく無心でページをめくっていると、3年前の絵にたどり着いた。

 美しい街並み、緑豊かな公園、そしてその中で屈託なく笑う少女。ウィーンでの日々が、鮮やかに蘇る。

 エリサは、いまもどこかで無邪気に歌っているのだろうか。
 結局ピアノの演奏は聴けずじまいだったが、彼女の歌声は、ずっと耳に残っている。

 ウィーンで撮った写真も一緒に眺めていると、エリサの絵を描きたい衝動がむくむくと湧き上がってきた。

 ここのところ日展に出す絵のモチーフについてずっと考えていたが、自分のいまの感情に従うのがよさそうだ。

 そう決めた途端、着想が一気に頭の中を駆け巡った。
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