至上最幸の恋
 それから数日後の、日曜日。
 律が友人とランチへ行ったので、ひとりで黙々と筆を動かしていると、絵を展示してもらっている西麻布のギャラリーから電話がきた。

「依頼、ですか?」
「そうそう。うちで展示している君の絵を、えらく気に入ってくれた様子でね。ぜひ描いてほしいと言うんだよ」

 画廊主である桂木さんの声が弾んでいる。どうやら、オレに絵画制作の依頼があったらしい。

「嬉しいねぇ。僕はね、君が世界から注目を浴びる画家になると確信しているからね」

 桂木さんとは最近知り合ったばかりだが、オレの絵を高く評価してくれていた。

 通常は展示料がかかるのに、絵の展示料は出世払いだと言って決して受け取らない。
 商売ではなく、純粋にアートを愛しているのが伝わってくる。

「今日の夕方にまた来るそうだけど、浅尾君の予定はどうかな?」
「大丈夫です。伺います」

 こういうチャンスは、絶対に逃してはいけない。たとえ予定があったとしても、行くべきだ。
 律はなかなか帰ってこなかったので、ひとまず書き置きを残して家を出た。

「やぁ、浅尾君。わざわざすまないね」

 ギャラリーに着くと、すぐに桂木さんが出迎えてくれる。もうすぐ還暦らしいが、常に穏やかな笑みをたたえた紳士的な人だ。
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