至上最幸の恋
「とんでもないです。こちらこそ、ご連絡ありがとうございます」
「みんな、君の絵の前で立ち止まるよ。中には涙を浮かべる人もいる。やはり、浅尾瑛士の日本画には確かな力があるね」

 桂木さんが、満足気に何度も頷く。
 
 ここに展示させてもらっているのは、冬の湯ノ湖の絵だ。
 昨年ひとりで日光へ行った際、湯ノ湖の湖畔に佇む旅館に宿泊した。

 春の芽吹き、夏の深緑、秋の鮮やかな紅葉。季節によってさまざまな表情を見せる湯ノ湖だが、オレの心を打ったのは、落葉した木々と湖面の静けさ。

 紅葉や雪景色も魅力的だが、オレは静寂の中にある美を切り取るのが好きだった。

「あの絵を気に入っていただけたのなら、光栄です」
「君に絵を描いてほしいと言ってきたお嬢さんも、絵の前で泣いていたよ」
「お嬢さん?」
「まだハタチくらいじゃないかな。若い女の子だったね」

 それを聞いて、不安になる。本当に、正式な制作依頼なのだろうか。

「大丈夫だよ。きちんとしたお嬢さんだから」

 桂木さんは笑顔のまま言った。どうやら、思いきり顔に出ていたらしい。
 しかし桂木さんがそう言うのであれば、冷やかしなどではないのだろう。

 もうすぐ来るはずだというので、ギャラリー内のテーブルで待つことにした。
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