至上最幸の恋
 温かい緑茶を飲んで少し落ち着いたのか、エリサは小さく息をついて、また話し始めた。

「実はあのとき、祖父が危篤だと連絡が入ったんです」

 エリサが、長いまつ毛を伏せる。

「それで、急遽フィンランドへ行くことになって。瑛士さんにお伝えする時間もなく、ウィーンを発ってしまいました」

 なるほど、そういうことだったのか。

 連絡手段がないだけでなく、共通の知人もいなかったのだから仕方ないな。

 オレの宿泊先を教えておけばよかったが、描くことに夢中で、すっかり頭から抜けていた。エリサからは聞き出しづらかっただろうし、オレがもっと配慮すべきだった。

 しかし、もう過ぎたことだ。当時のオレとエリサの縁はそこまでだったというだけで、いまあれこれ考えても、時間は戻らない。

「そうか。大変だったんだな」
「あ、でも祖父は奇跡的に持ち直して、いまも元気にしております。ただ、瑛士さんとあんな形でお別れすることになってしまい……本当に、申し訳ございませんでした」

 エリサが立ち上がり、深く頭を下げた。この3年間、ずっと気に病んでいたような表情だ。

 こうして再会できたのは、オレを探し回っていたからなのかもしれない。「日本画家・浅尾瑛士」という名前だけを頼りに、都内のギャラリーを渡り歩いていたのだろうか。
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