至上最幸の恋
「瑛士さんの絵には優しさを感じます。前に立つだけで心が温かくなって、涙が溢れてきました」

 面と向かってそんなことを言われたのは、初めてだった。

 オレは別に、誰かを感動させたくて絵を描いているわけではない。ただ子どものころから描くことが好きで、それが唯一の自己表現法だったというだけだ。
 
 自分の心が動かされた景色を、自らの手で美しく(えが)きたい。「普遍の美」に近づきたい。そういう想いが次第に強くなり、東都藝術大学でさまざまな技法を学んだ。そして日本画に限らず、油絵や水彩画、陶芸、立体アートなど、多くの芸術に触れてきた。

 それでも、理想とする美はまだ見えていない。そもそも、近づけているのかすら分からない。
 ただ、いま描いている絵が完成すれば、なにかを掴めそうな予感がしていた。

「浅尾君の絵はね、とても素直なんだよ。だから人の心に真っすぐ届く」

 桂木さんが、オレの絵を眺めながら何度も頷く。100号サイズということもあり、この小規模なギャラリーの中では目立っていた。

「はい、そう思います。だから私は、あなたに描いていただきたいんです」

 エリサが姿勢を正して、真っすぐオレを見た。
 3年経っても、彼女の瞳は変わらない。透明で無垢で、世の中の重苦しい空気すら浄化してしまいそうな美しさだ。
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