至上最幸の恋
 ただでさえ画材が高いんだ。直接文句を言われたことはないが、律はさぞかし不満に思っているだろう。これ以上、無理がきく状況ではなかった。

「一応、事務所から書面も預かっております。権利の範囲などが記載されているそうなので、ご一読ください」

 そう言って、エリサはバッグからA4サイズの封筒を取り出した。
 あらかじめ事務所に相談して、書面まで用意するとは。てっきり勢いで動くタイプかと思っていたが、意外と用意周到なところがあるようだ。

「助かるよ。あとあと面倒事になるのは、ごめんだからな」
「エリサさんは、しっかりしているねぇ。最近は、権利関係でのもめごとが増えているからね。こういう書類は大事だよ」
「ふふ。しっかりしているのは私ではなくマネージャーですわ、桂木さま」

 マネージャーもついているのか。ふと、エリサが遠い世界の人間のように感じてしまった。
 彼女が努力した結果なのだから、嬉しくはある。ただ、焦燥感に似た複雑な感情が胸の奥に居座っていた。

 3年経っても、オレは売れない画家のまま。肩書きから「学生」が取れたというのに、あのときから一切進歩していない。出世する道が見えているわけでもなく、妻にジュエリーを贈るような甲斐性は皆無だ。
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