地獄の顔は何度まで?
「ねぇねぇ、ふと思ったんだけどさ。何でオムライスはオムライスなの?」
オムライスを撫で回していた宋が思い出したように聞く。
「オムライスはオムライスだろう」
「いや、そういう意味じゃなくて......何でオムライスって名前にしたの?」
「そういうことか」
初江王は納得したように言った。
「それはねぇ......」
私はそれを聞いてオムライスと初めて出会った日のことを思い出し、口を挟む。
多分、あれは明治時代くらいの時だったかな。

その日、私は退屈していた。
「しょーくん遊ぼ!」
そう言って初江王の部屋を覗くと、彼は眉間にしわを寄せて本棚をひっくり返していた。
「帰れ」
「何してるの?」
「人の話を聞け!」
本には難しそうな文が並んでいて、読めない。
「......閻魔帳がどっかいった」
「え!?」
本を一冊ずつ確認しながら「これでもない......」と落ち込んでいる。
「しょーくん、私も手伝う!」
「いいよ、帰れよ」
突っぱねられてしまったが、大量の本の中からお目当ての一冊を見つけるのは、そう容易なことじゃない。
それから一時間くらい二人で部屋をあっちこっち探したが、見つからなかった。
「ないねー」
「うん」
積み上がった本を見上げながら、二人で落ち込む。
「もういい。閻魔に事情を話して新しいの作ってもらう」
「怒られるよ」
「秦や宋じゃあるまいし、日頃の行いが良いからそんな怒られないだろう」
「私より宋くんの方が怒られてるもん!」
「いや、どっちも同じくらいだろ」
そこで、私はふと思い出した。昨日、十王のみんなで初江王の部屋に集まってお菓子パーティしたことを。
「あっ、しょーくん。昨日ここにお菓子こぼしたよね」
「え?……うん。こぼしたのは秦だけど」
初江王がじとーっと私を見る。
私はぷいっと顔を背けた。
その時、部屋の隅で何かが動いたような気がした。
その正体は犬だった。
「犬......?」
「昨日拾ったんだよ。事故で死んだらしくて......前世は野良犬だったらしいんだ」
初江王はその犬のところへ駆け寄ると、「あっ!」と声を上げる。
「どうしたの?」
「あった!閻魔帳があった!!」
犬の下には閻魔帳。そりゃどんだけ探しても出てこない訳だ......。
犬はぺろっと舌を出し、しっぽを振った。
「ねーねー、しょーくん。名前どうするの?」
「名前?」
「うん!」
初江王はうーんと腕を組んで考え始める。
「しぐれ煮......湯豆腐......佃煮......いなり寿司」
しかし、その口から出てくる単語が犬の名前候補だと思うと、鳥肌が立つ。
「しょーくん......?」
「よし、決めた」
犬の鼻がぴくりと動く。
「今日からお前は――オムライスだ」
「オムライス!?」
つい、叫んでしまった。
「何でオムライスなの?あとオムライスって何?」
「前に人道に連れて行ってもらった時、食べて美味しかったから」
「えー良いなぁ〜!!私も行きたい行きたい!」
床でジタバタとごねる。
「何でしょーくんだけ連れて行ってもらったの?」
「ちゃんと審判したからって閻魔は言ってた。秦もちゃんと審判したら連れて行ってくれるんじゃないか?」
「......」
犬──いや、“オムライス”になってしまった犬はぽかんとした顔でこちらを見上げていた。
「オムライス、おいで」
初江王が手招きをする。
犬は一瞬きょとんとしてから、とことこ歩いてきて初江王の足元に座った。
初江王は少し驚いたように目を瞬かせ、それから照れ隠しみたいにそっぽを向いた。
「......ちゃんと座れるじゃないか」
その足元で、オムライスは誇らしげに胸を張っている......ように見えた。
しっぽがぱたぱたと忙しなく揺れている。
「可愛い〜!」
私は思わずしゃがみ込み、その頭を撫でた。
ふわっと温かい感触が手のひらに伝わる。

「って訳!」
私が話終わると、みんな一斉に初江王に目を向けた。
「お前のネーミングセンスヤバすぎだろ」
「オムライス、湯豆腐とかしぐれ煮になってなくて良かったね」
「いや、オムライスも大概でしょ」
「なるほど、だからオムライスですか......ってなる訳ないでしょう!」
オムライスは、そんな空気なんて気にもせず、初江王の足元でごろんと転がった。
「あ」
「......こら」
そう言いながらも、初江王は足をどかさない。
むしろ、逃げないように少しだけ寄せた。
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