地獄の顔は何度まで?
第五章、温泉旅行
その温泉は、冥府のパワースポットとして人気が高い『極楽湯』だった。
さすがに温泉に動物は無理かもしれないという決断の元、オムライスは泣く泣く手が空いている十王に預けられた。
「いや〜、温泉なんて久々だね〜」
閻魔が荷物を置きながら笑っている。
「半額チケット貰って良かったね〜」
「それな」
「ねぇねぇ、みんなで写真撮って良い?学校のみんなにも見せるんだ〜!」
ごーちゃんがスマホ片手に聞いてきた。
「良いよ〜!」
「じゃあ撮るよ〜!はい、寄って寄って〜!」
ごーちゃんが腕を伸ばして、慣れた手つきで画角を調整する。
「ちょ、近い近い」
「宋の主張が激しい」
「いえーい!」
初江王は少し後ろに下がろうとして、「おい、フレーム外れる」と変成くんに袖を引っ張られている。
わちゃわちゃしている間に、シャッター音が鳴った。
画面を覗き込むと、全員綺麗に撮れていた。
「じゃあ温泉入ろ〜」
宗の一声で、場の空気が一気にゆるむ。
「待て待て、走るな」
「滑ったらシャレにならないからね〜」
初江王と閻魔が軽く注意するが、もう半分は聞いていない。
「じゃあ出たら待っててね〜」
「閻魔〜、二百円ちょうだい」
「後で買ってあげるから、先に出たら待っててね〜」
男子組と別れて女湯の脱衣所に向かうと、週末だからか結構お客さんがいた。
木造の脱衣所、湯気、石造りの湯船。 壁には湯の花の効能が丁寧な字で書かれていた。
脱衣所の端では、先に上がったらしい人たちが団扇で風を送っている。
籠に服を入れながら、その様子を横目で眺めた。
「思ったより混んでるね」
「人気だしねー、ここ」
しばらくして上がると、湯上がり処には、牛乳とコーヒー牛乳にフルーツ牛乳の販売所があった。 ちゃんと瓶で、紙のフタ付き。
冷蔵ケースの前で、自然と足が止まった。
「……悩む」
「全部飲みたい」
「それは無理でしょ」
背後から、変成くんの声がした。
「どれにするかで性格出るよね」
変成くんはそう言いながら、腕を組んで冷蔵ケースを覗き込んでいる。
その後ろでは、宋がケースのガラスに顔を近づけていた。
「なんかこれ、どっかで見たことあるな〜って思ったら人道にもあったよね」
「平等王が昔、人道で衝撃を受けた物の話をしたレコードを出したら、それを聴いたこの女将が冥府に作ってみたらしいな」
「そう言えばレコード出してたよね〜」
「人道の文化、ちょいちょい冥府に逆輸入されてるよね」
「平等王の影響力、地味に強いからな」
宋はまだガラスに張り付いたまま、真剣な顔をしている。
「…よし、フルーツ牛乳に決めた!」
「私はコーヒー牛乳にしよっかな〜」
「私も!」
「変成くんは何にするの?」
「俺は初江王と同じ牛乳」
飲み物を購入し、夜ご飯を食べる為のお座敷で飲みながらメニュー表を見ていると、何処からか「お姉ちゃん、お兄ちゃん!」と幼い声が聞こえてきた。
声の方を見ると、じごさいで迷子になっていた子鬼の男の子だった。
まさかこんなところで会えるなんて思ってなくて、つい反応に遅れてしまう。
「あっ……!」
一拍遅れて立ち上がると、男の子はぱっと顔を明るくしてこちらに駆け寄ってきた。
その近くの座席には弟くんとお母さん、お父さんらしき人物がいる。どうやら家族で来ていたらしい。
「閻魔さま、こんばんは!」
枝豆を摘んでいた閻魔に元気よくお辞儀をする男の子。
「こんばんは、葵くん」
閻魔は枝豆の小鉢をテーブルに置いてから、男の子と目線を合わせて軽く手を振った。
「あれ?閻魔さまと一緒にいるってことは……お姉ちゃんとお兄ちゃん、もしかして、十王なの?」
「正解!」
「すごーい!有名人だー!!」
「じごさいの時は暗くて角があるかどうか見えなかったんだろうね」
「ぶっちゃけ鬼と十王の判別方法って、角があるかないかだもんね〜」
宗がケラケラ笑う。
その時、男の子のお母さんが男の子を呼んだ。どうやらご飯が運ばれてきたらしい。
男の子は机に戻っていった。
「じゃあ僕達もご飯頼もっか」
「今日は閻魔の奢りだー!」
「仕事押し付けられてるし、これくらい頼んでも良いだろ」
「閻ちゃん、オレうどん」
「私もうどん」
「盛り蕎麦…あったあった」
「五官王は昔から盛り蕎麦好きだよねー」
「美味しいじゃん!」
「今さっき、五道からオムライスの写真が送られてきた」
五道(五道転輪王(ごどうてんりんおう))から送られてきたオムライスの写真を見て頬を緩ます初江王。
< 25 / 25 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:12

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

四神に愛され注意報

総文字数/19,081

恋愛(逆ハー)6ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
平々凡々な女子中学生の私、綾野小春は事故で両親を亡くしてから幼い頃から一緒にいたペットと暮らしている。そんなある日、四匹のペット達がイケメンの人間の姿になっていて―――しかも彼らは四神らしく!? 「小春ちゃん。はい、あーん」 明るくて距離感がバグっているお調子物だけど、面倒見は良い......と思う。玄武と仲が悪い・朱雀(ねぎま) 「ほら、ここ座れ。髪といてやる」 あまり性格が良いとは言えない感じだが、一番小春に懐いている・白虎(ひややっこ) 「こーちゃんは流石ですね。僕達の誇りです」 なにかと不運だが、植物の手入れだけは何が何でも欠かさない・青龍(にょろ丸) 「......似合っているんじゃないか?」 蛇を巻いているのが特徴的な四神の中で一番の常識人であり、一番大人っぽい。朱雀と仲が悪い・玄武(カメ吉)
春を待つ

総文字数/54,965

歴史・時代22ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ただ、がむしゃらに生にしがみついた。 それは、熱くて、苦しくて、悲しくて、悔しかった。 貴方と、生きていたかった。 本当は、誰も死にたくなかった。 「仕方ないね」なんて、そう割り切れたら良かった。 叫びは声にならず、願いは形にならず、願いは誰にも届かなかった。 それが世界だった。 私の想い人は、神様になる人です。
日ノ本元号男子

総文字数/122,888

歴史・時代52ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
平々凡々の女子中学生・初野美空はある日、ある紳士に誘われ、不思議な場所に足を踏み入れる。 そこにいたのは、縄文、弥生などの擬人化達十七人。 擬人化男子達は美空本人さえ知らないある秘密を知っていてーーー!? 「まぁ......君が好きなら別に良いけど」 縄文。 「芸は身を助くるて言う。世の中に覚えておいて損なものはなかばい」 弥生。 「古墳は王の墓やねん。ロマンが詰まっとるやろー?」 古墳。 「遣隋使の時代なのですよー!」 飛鳥。 「ん〜、まぁまぁだろ」 奈良。 「若い者には幸せになってほしいですねぇ」 平安。 「日ノ本の歴史に携わる身、"若輩者だから"で許されるか?」 鎌倉。 「僕は南朝」「俺は北朝」 南北朝。 「怒っちゃった?ごめん。徳政令でチャラにして?」 室町。 「辛い時には私達がついていることを忘れないで頂きたく。特に私を忘れないで頂きたく!」 戦国。 「日本一の色男、安土桃山であります!」 安土桃山。 「別にアンタと仲良くなりたいとか思ってないし!!」 江戸。 「思い出というのは綺麗に見えるんですよ」 明治。 「美空っち可愛い〜!ラジオ巻き、似合ってるよ!」 大正。 「体は資本。ま、俺 もちっとばかし前までは御寮人みてぇにやんちゃしていたけど......」 昭和。 「気楽に生きた方が絶対楽しいって〜!」 平成。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop