前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?

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 莉子がそう考えた瞬間、意識がクラリスに戻った。
 一緒に祭りに来ていた乳姉妹(ちきょうだい)のマルゴに、「何か飲み物を買ってきますね」と、声をかけられたのだ。

「あ、うん。じゃあ私、あの噴水のベンチにいるね」
「はい。すぐ戻ります」

 ニコッと笑ったマルゴが、小走りに果汁を売っている屋台に向う。
 その背を見送るとクラリスは空いているベンチを確保に向かい、無事座ることが出来た。

 今夜は三年ぶりの春祭りだ。

 はやり病と天災の影響で出来ずにいた久々の祭りは、同時にこの町の領主である伯爵の娘の社交界デビューの日でもある。独身の令嬢令息はこぞって結婚相手を探しに領主館の舞踏会へと向かい、町の人々は屋台を冷やかし、満開になった春の花を愛でながら浮かれ騒いでいた。身分に関係なく、今日は独身男女の出会いの場でもあると言える。

 クラリスは一応令嬢ではあるのだが、家族との折り合いがよくない為、舞踏会へは参加できない。代わりにマルゴに誘われ、庶民の格好で町の祭り見物に来ていたのだ。

(庶民の格好なんて言っても、普段の服装もたいして変わらないんだけどね)

 突然前世を思い出してもパニックにならなかったのは、十七年クラリスとして生きていた記憶の方が強いからだろうか。
 二十四歳だった莉子の記憶は夢や空想めいていて、少しだけ遠い。

(まさか一番興味のなかった私が、こんな異世界で生まれ変わるなんてねぇ)

 死んだ記憶はないから、もしかしたらこれは夢なのかも? なんて思ってみるけれど、十七年分の夢はさすがに長すぎるし、莉子の記憶もリアル過ぎた。

 周りを見れば、数百年前のヨーロッパを思わせるような服装や建物。しかも、ほんの少し魔法だの、町の外には凶暴な魔獣だのがいるのが当たり前。
 正直、あまりにもお約束な世界で笑いも起きない。
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