前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?

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「よし、バルト! 茶色の髪と目をしてクリーム色の髪飾りを付けた娘に求婚してくるんだ!」

 完全に酔っ払いのたわごとといった大声が聞こえドキッとする。

(まあ、こんなに暗くちゃ目の色なんてわからないわよね)

 そう思いつつもドギマギしながら成り行きを見ていると、振り返ったバルトという男と目が合った。

(わ、やばい)

 クラリスではなく、記憶の奥底にいる莉子の意識が思わず声をあげた。

(うっわ、うわぁ、うわあ、信じられない。え、かっこいい。やばい。めちゃくちゃ好みなんですけど……!)

 バルトと呼ばれた男は、クラリスよりずっと年上に見えた。たぶんアラサーくらい。前世を思い出す前のクラリスなら、おじさんにしか見えない男性。多分、目が合った瞬間マルゴの手を引いて逃げていただろう。

 でも今のクラリスの中には莉子の記憶がある。

 二十四歳の莉子と十七歳のクラリスをあわせれば、アラフォーのおば……げふん……お姉様だ。莉子は年上も嫌いじゃなかったけど、男っぽくて頼りになる「年下の男」が好みだった。そして目の前の男はまさに、その枠にぴったりはまって見えた。

(いやん。かっこいいけど、よく見るとちょっと可愛いかも)

 突然目の前で跪いてバルトと名乗った男を見つめながら、クラリスの中で目覚めた莉子の意識が大変なことになっている。表面上は長年培った教育の賜物で、穏やかに礼儀正しい笑顔を浮かべているけれど、本当は口元に手を当てて黄色い悲鳴を上げたい!

(かっこいい! ほんと、かっこいい!)

 もはやバカみたいにかっこいいしか言葉が出ない。

 ツンツンとした明るい茶髪も、凛々しい口元や眉も、クラリスを見あげて少し申し訳なさそうにしているグレーの目も、こちらに差し出した大きな手も、すべてが好みだった。

「美しい娘よ。よかったら名前を教えていただけないだろうか」

(声まで好き!)

 ここまで好みの権化のような男に会ったのは、前世今世合わせても初めてだった。

 マルゴが「クラリス様」と小声で呼んで引っ張っていこうとするけれど、お尻に根が生えたように動けない。いや、動きたくない。
 バルトの姿を事細かに目に焼き付けたかった。
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