女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します
第九十九話 学園祭前日
そんなことをしているセドリックとリリアンナの二人を、ロミーナは不思議そうに眺めていた。リリアンナに相談してからというもの、セドリックはぱったりと自分の所に来なくなった。リリアンナからは、時間がかかるから待っていて欲しいと説明されたのだが、理由はよく分からない。ひとまずセドリックからの猛攻撃がおさまったのはリリアンナのおかげだと思い、最初はほっとしていた。しかし、二日もするとロミーナはよく分からない焦燥感に駆られていた。
もうステファンに、一緒に教室に戻ろうと声を掛けることは無い。昼食と学園祭の準備さえ終えれば、後は一人の時間が待っている。一人で教室へ戻り、一人で席について本を読みながら時間を潰す。話しかけられればクラスメイトと話をするが、話が終わればまた一人だ。
『先輩!』
そうして孤独に過ごす中、流暢なライ語で気軽に話しかけてくれたのがセドリックだった。距離感が近すぎて困っていたのも確かだが、彼がいて孤独や寂しさが癒されていたのも確かだった。そのセドリックも、今はいない。だって、自分から突き放してしまったのだから。
そんなある日、リリアンナと話しているセドリックを見かけてつい目で追ってしまった。何をしているのかと思えば、セドリックは照れたように頬を染めて笑っている。自分にも見せたことがない表情や仕草に驚いてしまう。
(リリアンナは美人だし、可愛くて優しい。セドリック様とは、私よりも年も近いし、仲良くなって当然よね)
そう思いつつも、よく分からない焦燥感と寂しさは消えない。
(今更、何を考えているの? 困ると言って突き放したのも、リリアンナにお任せしたのも自分。それなのに、リリアンナとセドリック様に、一緒にいて欲しくないと思うなんて……)
話が終わったのか、二人は離れる。その様子を見て、ロミーナはほっとしている自分に気付いた。
(馬鹿よね。本当に、愚かだわ)
***
「これで学園祭の担当者は決まったな。昨年よりも人数が多かったせいか、準備の忙しさは減っていた。皆、ありがとう。感謝するよ」
アレクサンドがそう伝えてくれた。今は学園祭前日。いつもの王族専用食堂ではなく、昨年のように会議室を使用して最後のミーティングを行っていた。
学園祭の最中、誰かはトラブル対応のためにここに残っていなければならない。そのための担当だ。配布された表には、思っていた通りのペアが並んでいる。
初日の午前中はアレクサンドとイザベラ。昼は私とヤコブ。午後はレオナルドとマルグリータ。二日目の午前中はステファンとメロディ。昼はセドリックとロミーナ。午後はレオナルドとマルグリータ。最終日の午前中はステファンとメロディ。昼はセドリックとロミーナ。午後は私とアレクサンドだ。ペアは基本的に仲の良い者同士で、だいたい一人1回か2回は担当になっている。この決定に、特に異議を唱える者はいなかった。
「では、明日からの本番は楽しんでくれ。緊急で何かあれば、待機させた私の護衛に声を掛けるように。すぐに私に連絡が行く」
「「「はい」」」
みんなで一斉に返事をする。アレクサンドの声掛けで解散となり、各々が席を立つ。
アレクサンドはさっそくイザベラに声を掛けていた。明日の担当についてと言いながら、その後にデートにでも誘うつもりなのだろう。あれからアレクサンドに押されまくっているが、イザベラに心境の変化があったのかはよく分からない。
レオナルドは素早くマルグリータの席へと移動していた。丁寧に椅子を引いてやり、手を取って立ち上がらせてあげる。それらの気遣いが染みついており、マルグリータも自然な笑顔を浮かべていた。相変わらず仲が良い。
ステファンは無表情で特別な反応は見せていないが、メロディが部屋を出るタイミングに合わせていた。その辺りの行動の素早さや状況判断は、さすが騎士としての訓練を積んだだけのことはある。メロディの方もちらっとステファンの方を見ていたので、お互いに示し合わせていたのかもしれない。
セドリックはと言うと、緊張した面持ちでロミーナに話しかけていた。彼が声を掛けるのは久しぶりだからか、ロミーナも驚いている。このまま上手くいって欲しいものだ。
カップルだらけの中一人身なのはヤコブだが、特に気にした様子はない。荷物を手早くまとめると、周囲に挨拶をしたり会釈をしたりして私の方へやって来る。
「明日はよろしくお願いしますね」
「ええ、こちらこそよろしくね」
ヤコブが部屋を出ていったのを見送り、私も席を立った。廊下に出れば、ドアのすぐ横にシヴァが待機していた。薄暗い中、微動だにせずに一人佇む様子には少しびっくりするけど、私を見ると表情を緩める彼の様子に私もつい微笑んでしまう。
「お待たせ。一緒に帰ろう、シヴァ」
「はい、お嬢様」
私達は二人並んで、もう関係者以外の生徒が全員帰宅してしまった人気のない廊下を歩いて行った。
つい先ほどまで作業が行われていた廊下は、使用した道具や資材が残らないよう綺麗に掃除されている。看板などに使った絵の具の匂いや、新品のシーツやカーテンの匂いが微かに残っていた。展示物には白いシーツが掛けられ、明日に控えた本番を静かに待つかのように影を落としている。西日が落ちた校舎は窓の外の空の色を映して青白く沈み、私たちの靴音だけが規則正しく響き渡っていた。
「ねえ、シヴァ。明日はせっかくだからヴォルフガング様も学園祭に呼ぶんだってアレクサンド様が言ってたの。初日くらいは、一緒に見て回る?」
「え、あいつが?」
私の言葉にシヴァは驚いていた。王城に行ってからというもの、ヴォルフガングには会えていない。アレクサンドの話によれば、貴賓室で寝泊まりしつつ暇だからと騎士団の訓練場に行っては腕を振るっているらしい。リヒハイム王国の騎士団の中でもヴォルフガングの強さは群を抜いているらしく、そこらの騎士では相手にならず上官達と剣を交えることの方が多いと聞いた。
「会いたくないの? 同郷なんでしょう?」
「リリーと一緒にいるところを見たら、揶揄ってくるからな」
ああ、なるほど。シヴァにとっては、親に恋人と一緒にいるところを見られるようなものなのか。それは確かに恥ずかしい。
「じゃあ、昼頃はどう? 私がヤコブと担当で動けないから、その間にでも。アレクサンド様には伝えておくから」
「分かった」
シヴァとヴォルフガングのやり取りを思い出し、つい笑ってしまう。彼と一緒にいる時のシヴァは、年相応の少年のようだから。それだけ気を許して自然体でいるシヴァが見れないのは残念だが、しょうがない。
「学園祭、楽しみだね」
明日からのイベントに気分が高まり、私は軽くスキップしてみせた。
もうステファンに、一緒に教室に戻ろうと声を掛けることは無い。昼食と学園祭の準備さえ終えれば、後は一人の時間が待っている。一人で教室へ戻り、一人で席について本を読みながら時間を潰す。話しかけられればクラスメイトと話をするが、話が終わればまた一人だ。
『先輩!』
そうして孤独に過ごす中、流暢なライ語で気軽に話しかけてくれたのがセドリックだった。距離感が近すぎて困っていたのも確かだが、彼がいて孤独や寂しさが癒されていたのも確かだった。そのセドリックも、今はいない。だって、自分から突き放してしまったのだから。
そんなある日、リリアンナと話しているセドリックを見かけてつい目で追ってしまった。何をしているのかと思えば、セドリックは照れたように頬を染めて笑っている。自分にも見せたことがない表情や仕草に驚いてしまう。
(リリアンナは美人だし、可愛くて優しい。セドリック様とは、私よりも年も近いし、仲良くなって当然よね)
そう思いつつも、よく分からない焦燥感と寂しさは消えない。
(今更、何を考えているの? 困ると言って突き放したのも、リリアンナにお任せしたのも自分。それなのに、リリアンナとセドリック様に、一緒にいて欲しくないと思うなんて……)
話が終わったのか、二人は離れる。その様子を見て、ロミーナはほっとしている自分に気付いた。
(馬鹿よね。本当に、愚かだわ)
***
「これで学園祭の担当者は決まったな。昨年よりも人数が多かったせいか、準備の忙しさは減っていた。皆、ありがとう。感謝するよ」
アレクサンドがそう伝えてくれた。今は学園祭前日。いつもの王族専用食堂ではなく、昨年のように会議室を使用して最後のミーティングを行っていた。
学園祭の最中、誰かはトラブル対応のためにここに残っていなければならない。そのための担当だ。配布された表には、思っていた通りのペアが並んでいる。
初日の午前中はアレクサンドとイザベラ。昼は私とヤコブ。午後はレオナルドとマルグリータ。二日目の午前中はステファンとメロディ。昼はセドリックとロミーナ。午後はレオナルドとマルグリータ。最終日の午前中はステファンとメロディ。昼はセドリックとロミーナ。午後は私とアレクサンドだ。ペアは基本的に仲の良い者同士で、だいたい一人1回か2回は担当になっている。この決定に、特に異議を唱える者はいなかった。
「では、明日からの本番は楽しんでくれ。緊急で何かあれば、待機させた私の護衛に声を掛けるように。すぐに私に連絡が行く」
「「「はい」」」
みんなで一斉に返事をする。アレクサンドの声掛けで解散となり、各々が席を立つ。
アレクサンドはさっそくイザベラに声を掛けていた。明日の担当についてと言いながら、その後にデートにでも誘うつもりなのだろう。あれからアレクサンドに押されまくっているが、イザベラに心境の変化があったのかはよく分からない。
レオナルドは素早くマルグリータの席へと移動していた。丁寧に椅子を引いてやり、手を取って立ち上がらせてあげる。それらの気遣いが染みついており、マルグリータも自然な笑顔を浮かべていた。相変わらず仲が良い。
ステファンは無表情で特別な反応は見せていないが、メロディが部屋を出るタイミングに合わせていた。その辺りの行動の素早さや状況判断は、さすが騎士としての訓練を積んだだけのことはある。メロディの方もちらっとステファンの方を見ていたので、お互いに示し合わせていたのかもしれない。
セドリックはと言うと、緊張した面持ちでロミーナに話しかけていた。彼が声を掛けるのは久しぶりだからか、ロミーナも驚いている。このまま上手くいって欲しいものだ。
カップルだらけの中一人身なのはヤコブだが、特に気にした様子はない。荷物を手早くまとめると、周囲に挨拶をしたり会釈をしたりして私の方へやって来る。
「明日はよろしくお願いしますね」
「ええ、こちらこそよろしくね」
ヤコブが部屋を出ていったのを見送り、私も席を立った。廊下に出れば、ドアのすぐ横にシヴァが待機していた。薄暗い中、微動だにせずに一人佇む様子には少しびっくりするけど、私を見ると表情を緩める彼の様子に私もつい微笑んでしまう。
「お待たせ。一緒に帰ろう、シヴァ」
「はい、お嬢様」
私達は二人並んで、もう関係者以外の生徒が全員帰宅してしまった人気のない廊下を歩いて行った。
つい先ほどまで作業が行われていた廊下は、使用した道具や資材が残らないよう綺麗に掃除されている。看板などに使った絵の具の匂いや、新品のシーツやカーテンの匂いが微かに残っていた。展示物には白いシーツが掛けられ、明日に控えた本番を静かに待つかのように影を落としている。西日が落ちた校舎は窓の外の空の色を映して青白く沈み、私たちの靴音だけが規則正しく響き渡っていた。
「ねえ、シヴァ。明日はせっかくだからヴォルフガング様も学園祭に呼ぶんだってアレクサンド様が言ってたの。初日くらいは、一緒に見て回る?」
「え、あいつが?」
私の言葉にシヴァは驚いていた。王城に行ってからというもの、ヴォルフガングには会えていない。アレクサンドの話によれば、貴賓室で寝泊まりしつつ暇だからと騎士団の訓練場に行っては腕を振るっているらしい。リヒハイム王国の騎士団の中でもヴォルフガングの強さは群を抜いているらしく、そこらの騎士では相手にならず上官達と剣を交えることの方が多いと聞いた。
「会いたくないの? 同郷なんでしょう?」
「リリーと一緒にいるところを見たら、揶揄ってくるからな」
ああ、なるほど。シヴァにとっては、親に恋人と一緒にいるところを見られるようなものなのか。それは確かに恥ずかしい。
「じゃあ、昼頃はどう? 私がヤコブと担当で動けないから、その間にでも。アレクサンド様には伝えておくから」
「分かった」
シヴァとヴォルフガングのやり取りを思い出し、つい笑ってしまう。彼と一緒にいる時のシヴァは、年相応の少年のようだから。それだけ気を許して自然体でいるシヴァが見れないのは残念だが、しょうがない。
「学園祭、楽しみだね」
明日からのイベントに気分が高まり、私は軽くスキップしてみせた。