女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します
第九十八話 セドリックへの恋愛指南
「……セドリック様は、ロミーナ嬢との婚約の話は本気で言っていたのですか?」
私の言葉にセドリックはきょとんとした表情をした。
「もちろん、本気ですけど。僕に婚約者はいませんし、家格も伯爵家同士で釣り合うでしょう?」
どうやら本気で婚約しようとしていたらしい。言っていることはもっともだし、その通りだとは思うのだが、問題はそこではないのだ。
「それは、まあ、そうなんですけど……セドリック様は、ロミーナ嬢が好きなんですか?」
「うん、もちろん」
セドリックの笑顔はどこまでも爽やかだ。良くも悪くも。
好意は確実にあるのだろうが、それは決して恋愛感情ではない。まだ幼いせいもあるのだろうが、セドリックにとっては婚約すれば仲の良い人と一緒に居られて楽しい程度の認識になっているらしい。私は頭を抱えるしかなかった。どうすれば恋愛感情と言う認識になってもらえるのだろうか。
「セドリック様の気持ちは分かりました。ですが、ただ仲が良いだけでは上手くいきません。政略結婚ならいざ知らず、本人達の意思で婚約するんですから」
「何か違いがあるんですか?」
「仲良しの”好き”と婚約を決めるほど恋愛的に“好き”と言うのは違いますから」
私の言葉に、そういえばそうかという反応を示す。知識として知っていたとしても、感情としてはピンと来ていないらしい。
理解して実感してもらうには、どうすれば良いのか。しばらく私は考えて、とある二人を思い出した。
「よく分からないのでしたら、お手本を見せてもらいましょう!」
「リリアンナ嬢とアレクサンド殿下のですか?」
「……それは置いておいて」
確かに、何も知らないセドリックからすれば私が婚約者であるアレクサンドとお手本を見せてくれると思ったのだろう。気持ちは分からなくもないが、婚約者としていちゃついている私達がどうしても想像できない。かといって、シヴァといちゃついてる姿を彼に見せるわけにもいかないのだ。
「いつもの昼食メンバーにいるじゃないですか。いつも仲良しラブラブなお二人が」
セドリックは首を傾げて少し考え、納得したように手を叩いた。
「あの二人に、お手本を見せてもらいましょう!」
翌日。昼食後、私はさっそく例の二人の所へ行った。昼食後、学園祭についての仕事やミーティングを軽く済ませると、その二人は早々に仲良く肩を組みながら食堂を出ていった。セドリックに合図を送り、二人で慌てて追いかける。
「レオナルド! マルグリータ!」
私の声に二人は振り向いた。マルグリータを後ろから抱きしめるような姿勢のまま歩いていたようだ。マルグリータは乳白色の髪にいつものようにアップルグリーンのリボンを編み込んでいる。レオナルドに後ろからのしかかられ、少し重さはあるものの、特に苦痛とは思っていないようでなんとも自然な表情だ。レオナルドは二人の時間を邪魔されて一瞬むっとしていたが、私を見るとすぐに顔を緩めた。
「姉上! どうかしたんですか?」
「二人にお願いがあるの」
そこで私は、二人に簡単な説明をした。セドリックは政略結婚ではなく、自分で好きな人を作り婚約をしようとしている。しかし、どうにも恋愛感情がよく分かっていないし、相手にもどう接したら良いのか想像すらつかない。そこで、特に仲が良く、元々レオナルドの一目惚れで婚約した二人にお手本になってもらいたいのだ。
話を聞いた二人は、快く了承してくれた。
「そういうことでしたら、協力させて下さい。私でお手本になるかは分かりませんが」
「婚約したい好きな相手がいるなら、とりあえず“この人と結婚したいです!”ってごねてみると良いぞ」
「レオナルドの場合、王族っていう強権があったから成立した物でしょうよ……」
私がツッコミを入れると、「あ、そっか」とレオナルドは照れ笑いをした。しかし、これくらい分かりやすいまっすぐな姿勢と言うのも良いだろう。恋愛としての好きな人同士の触れ合いの手本としてはとても分かりやすい。セドリックも押しは強いので、レオナルドを見て上手い引き際をわきまえてくれれば尚良い。
「お二人共、よろしくお願いします!」
セドリックはぺこりとお辞儀をする。二人は優しく微笑んでくれた。
それから学園祭が始まるまでの数日間。セドリックはロミーナに付きまとうのをやめた。代わりにマルグリータとレオナルドの後をついて歩き、たまに話しかけて情報収集をしている。
「どうですか? 何かつかめてきました?」
そう質問してみると、セドリックは大きく頷く。
「な、なんか凄いなって思って……恋愛的に好きな人同士ってあんな感じなんですね」
「あの二人は特に距離が近い方ではありますけどね」
カップルには色々な形がある。レオナルドとマルグリータのように終始いちゃついているものもあれば、私とシヴァのように人目が無い所で仲良くしたり。アレクサンドとイザベラのように、片想いをこじらせているものもあれば、ステファンとメロディのようにお互いにさぐりさぐりちょっとずつ近づく関係もある。
「ロミーナ嬢とあんな風になる想像は付きましたか? それとも、ロミーナ嬢への気持ちは恋愛のそれとは違いましたか?」
私の質問に、セドリックは急に顔を赤らめさせた。彼の動揺した姿は始めて見るかもしれない。長い袖で恥ずかし気に口元を隠し、菫色の瞳を明後日の方向へ向けている。ブロンドの髪の隙間から見える耳まで真っ赤に染まっていて、なんとも可愛らしい姿だ。私まで一瞬きゅんとしてしまう。
「……あ、あそこまで近づけはしませんけど、将来僕が誰かとあんな風になるのなら」
ようやく口を開いたセドリックは小声で答えてくれる。
「それは、やっぱりロミーナ先輩が良いです」
その言葉は間違いなく、恋愛的に好きなんだと自覚したから発せられる言葉だった。
私の言葉にセドリックはきょとんとした表情をした。
「もちろん、本気ですけど。僕に婚約者はいませんし、家格も伯爵家同士で釣り合うでしょう?」
どうやら本気で婚約しようとしていたらしい。言っていることはもっともだし、その通りだとは思うのだが、問題はそこではないのだ。
「それは、まあ、そうなんですけど……セドリック様は、ロミーナ嬢が好きなんですか?」
「うん、もちろん」
セドリックの笑顔はどこまでも爽やかだ。良くも悪くも。
好意は確実にあるのだろうが、それは決して恋愛感情ではない。まだ幼いせいもあるのだろうが、セドリックにとっては婚約すれば仲の良い人と一緒に居られて楽しい程度の認識になっているらしい。私は頭を抱えるしかなかった。どうすれば恋愛感情と言う認識になってもらえるのだろうか。
「セドリック様の気持ちは分かりました。ですが、ただ仲が良いだけでは上手くいきません。政略結婚ならいざ知らず、本人達の意思で婚約するんですから」
「何か違いがあるんですか?」
「仲良しの”好き”と婚約を決めるほど恋愛的に“好き”と言うのは違いますから」
私の言葉に、そういえばそうかという反応を示す。知識として知っていたとしても、感情としてはピンと来ていないらしい。
理解して実感してもらうには、どうすれば良いのか。しばらく私は考えて、とある二人を思い出した。
「よく分からないのでしたら、お手本を見せてもらいましょう!」
「リリアンナ嬢とアレクサンド殿下のですか?」
「……それは置いておいて」
確かに、何も知らないセドリックからすれば私が婚約者であるアレクサンドとお手本を見せてくれると思ったのだろう。気持ちは分からなくもないが、婚約者としていちゃついている私達がどうしても想像できない。かといって、シヴァといちゃついてる姿を彼に見せるわけにもいかないのだ。
「いつもの昼食メンバーにいるじゃないですか。いつも仲良しラブラブなお二人が」
セドリックは首を傾げて少し考え、納得したように手を叩いた。
「あの二人に、お手本を見せてもらいましょう!」
翌日。昼食後、私はさっそく例の二人の所へ行った。昼食後、学園祭についての仕事やミーティングを軽く済ませると、その二人は早々に仲良く肩を組みながら食堂を出ていった。セドリックに合図を送り、二人で慌てて追いかける。
「レオナルド! マルグリータ!」
私の声に二人は振り向いた。マルグリータを後ろから抱きしめるような姿勢のまま歩いていたようだ。マルグリータは乳白色の髪にいつものようにアップルグリーンのリボンを編み込んでいる。レオナルドに後ろからのしかかられ、少し重さはあるものの、特に苦痛とは思っていないようでなんとも自然な表情だ。レオナルドは二人の時間を邪魔されて一瞬むっとしていたが、私を見るとすぐに顔を緩めた。
「姉上! どうかしたんですか?」
「二人にお願いがあるの」
そこで私は、二人に簡単な説明をした。セドリックは政略結婚ではなく、自分で好きな人を作り婚約をしようとしている。しかし、どうにも恋愛感情がよく分かっていないし、相手にもどう接したら良いのか想像すらつかない。そこで、特に仲が良く、元々レオナルドの一目惚れで婚約した二人にお手本になってもらいたいのだ。
話を聞いた二人は、快く了承してくれた。
「そういうことでしたら、協力させて下さい。私でお手本になるかは分かりませんが」
「婚約したい好きな相手がいるなら、とりあえず“この人と結婚したいです!”ってごねてみると良いぞ」
「レオナルドの場合、王族っていう強権があったから成立した物でしょうよ……」
私がツッコミを入れると、「あ、そっか」とレオナルドは照れ笑いをした。しかし、これくらい分かりやすいまっすぐな姿勢と言うのも良いだろう。恋愛としての好きな人同士の触れ合いの手本としてはとても分かりやすい。セドリックも押しは強いので、レオナルドを見て上手い引き際をわきまえてくれれば尚良い。
「お二人共、よろしくお願いします!」
セドリックはぺこりとお辞儀をする。二人は優しく微笑んでくれた。
それから学園祭が始まるまでの数日間。セドリックはロミーナに付きまとうのをやめた。代わりにマルグリータとレオナルドの後をついて歩き、たまに話しかけて情報収集をしている。
「どうですか? 何かつかめてきました?」
そう質問してみると、セドリックは大きく頷く。
「な、なんか凄いなって思って……恋愛的に好きな人同士ってあんな感じなんですね」
「あの二人は特に距離が近い方ではありますけどね」
カップルには色々な形がある。レオナルドとマルグリータのように終始いちゃついているものもあれば、私とシヴァのように人目が無い所で仲良くしたり。アレクサンドとイザベラのように、片想いをこじらせているものもあれば、ステファンとメロディのようにお互いにさぐりさぐりちょっとずつ近づく関係もある。
「ロミーナ嬢とあんな風になる想像は付きましたか? それとも、ロミーナ嬢への気持ちは恋愛のそれとは違いましたか?」
私の質問に、セドリックは急に顔を赤らめさせた。彼の動揺した姿は始めて見るかもしれない。長い袖で恥ずかし気に口元を隠し、菫色の瞳を明後日の方向へ向けている。ブロンドの髪の隙間から見える耳まで真っ赤に染まっていて、なんとも可愛らしい姿だ。私まで一瞬きゅんとしてしまう。
「……あ、あそこまで近づけはしませんけど、将来僕が誰かとあんな風になるのなら」
ようやく口を開いたセドリックは小声で答えてくれる。
「それは、やっぱりロミーナ先輩が良いです」
その言葉は間違いなく、恋愛的に好きなんだと自覚したから発せられる言葉だった。