女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します

第七十七話 作戦会議

 放課後、私とヤコブとイザベラはモンリーズ家の馬車の中で相対した。二人は何事かと、興味津々で私の話を聞いてくれる。

「それでね、ロミーナとセドリックが良い感じになりそうなのよ」

 私は一通り知った、ロミーナ側の事情の話をした。このままステファンと婚約解消することになってしまえば、守ってくれる人、立場が無くなってしまう。そのためにも、誰か別の婚約者を用意する必要があると。
 また、入学式にセドリックとメロディが出会わなかった事件。あれはロミーナが先にセドリックと出会っていたからであり、その経験から二人が仲を深めつつあることも説明した。

「私、セドリックルートは全然やってなくて、詳細を知らないの。セドリックとロミーナが結ばれるルートって、ありかな?」

「セドリックルートですか……」

 少し難しそうな顔でヤコブは考え込む。イザベラも顎に手を当てて考えているようだ。

「私は、無くはないと思うわ」

 しばらく考えた後にイザベラはそう答えた。そこから、イザベラが知るセドリックの背景を教えてもらうことができた。
 セドリックはリリアンナ同様、生まれつき魔力量が多かった。その結果、彼も性質に悩まされることになる。彼に発現した性質は【透過】。限りなく存在感を消してしまい、下手をすると周囲から存在を忘れられるというものだ。赤ん坊の頃からその性質により、セドリックは危うく育児放棄されるところだった。両親も乳母もそのつもりが無くても、【透過】が発動しているセドリックを見失い、存在を忘れかけてしまう。
 そんな中、助けになってくれたのが母だった。セドリックの母は自らの手にセドリックの名前のタトゥーを入れ、息子の存在を忘れかけても思い出せるよう努めた。タトゥーなどは下町のゴロツキが入れるもので、淑女であるセドリックの母が入れるのは異例のことだ。他の人に見られれば、どんな陰口をたたかれるか分からない。それでも息子を想い、セドリックの母は社交界に出る時は手袋をしながらなんとか息子の存在を忘れず育児をした。
 セドリックが成長し、なんとか魔力操作を覚えてほとんど性質が発現しなくなった頃。元々体が弱かった母は、安心して気が緩んだのか病に倒れ、そのまま亡くなってしまう。

「セドリックが付けている髪飾りはね、その母親の形見なのよ。ルートが進むと、その話をしてくれるの。その話に肯定的な返しができれば、セドリックルートで確定して、学園祭のデートに繋げられるわ」

 女物の髪飾りを常時付けているのを不思議に思っていたが、そんな理由があったとは。まあ、幼く可愛らしい顔立ちの彼に似合っているので、あまり深く考えたことは無かったが。

「ただ、ロミーナがそのルートに入っているかは……メロディと仲良くなるのって、同じ趣味が原因だったはずだけど」

 それに対して、ロミーナは自ら「姉代わり」と言っているのだ。ちゃんとルートに進めているのか、判断が難しい。

「まあ、リアルの人間関係なんてなかなか周囲からは分からないものですからね……」

 ヤコブがちらりとイザベラを見る。私もつい、イザベラを見てしまった。今まで明らかにアレクサンドに好意を寄せているよに見えたのに、実際はそんなこと全く無かっただなんて。こんなにギャップがあるのも珍しい。

「……な、何よ! 私の顔に何かついてるの?」

「そういえば、最近アレクサンド様とはどう?」

 つい気になり尋ねると、すぐにイザベラが顔を真っ赤にした。それは恋愛的なものなのか、推しに迫られていることに対してなのか、私には判別ができない。

「わざわざ聞かないでよ! 最近、距離が近くて困ってるんだから!」

 イザベラが叫ぶが、照れているのかなんなのか。

「……とりあえず、話を戻して。ロミーナとセドリックの件ですよね」

 ヤコブが手を叩き、話を変えてくれる。もっとイザベラとアレクサンドの話も聞いてみたかったが、今はその時ではない。

「様子を見てみるしかないのでは、と私は思うのですが」

 イザベラとアレクサンドの時もそうだが、ヤコブは否定的だ。周囲があれこれお膳立てをして、無理に仲を深めるのはどうなのだろうかという考え方なのだ。それは否定しないが、ロミーナの未来がかかっている。

「そういえば、セドリックは婚約者がいないんだよね?」

「ええ。確か、【透過】のせいでつい最近まで母親以外の家族から存在を忘れられがちだったから。用意しようとすら思われていなかったんじゃないかしら」

「それなら、ロミーナが婚約者になったって、良いわけだよね?」

 私の言葉に、イザベラが頷く。彼女の表情は明るく、何かを楽しそうに期待しているようだ。さすが親友同士。意見が合う。
 残るはヤコブだ。二人でヤコブの顔をじっと見つめると、根負けしたように彼はため息をついた。

「……私は、基本的に反対なんですからね? ただ、まあ……その方が丸く収まるというのには同意しますよ」

 一応の了承はもらった。ステファンとメロディ、セドリックとロミーナで結ばれる。それが一番良さそうだ。それならば、今後私達に何ができるのか。どんなお膳立てが必要なのか、考えていく必要がある。残り時間はそれについて、私達は頭を悩ませた。
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