女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します
第七十六話 久しぶりの触れ合い
「図書館に行ってたんですか?」
「はイ」
「もしかして、誰かと会ったりしました?」
「えエ。セドリック様と」
原因ここだった! まさかロミーナに深入りしたことで、プロローグの裏で彼女が関わるようになっていたとは完全に予想外だ。そうなると、セドリックとロミーナが親しげに見えたのにも納得がいく。
もしかして、ロミーナがセドリックルートに進んでるの? と思うが、私はセドリックルートに関してはノータッチ。全く分からない。別に全く興味がなかったわけではなく、やろうとはしたのだ。しかし、触りだけプレイして途中でリリアンナと出会った際にシヴァが登場。シヴァ目当てに、すぐにアレクサンドルートへ転身したというのが起こったことだ。
最初の方は何だったか。確か、プロローグで図書館の出会いをした後、ちょっとずつ出会うことが増えて先輩として懐かれるんだっけ。こればかりは、ちゃんとプレイしていたイザベラや制作側のヤコブに聞くしかない。
「セドリック様と一体何を?」
気になってしまい、つい質問してしまった。ロミーナは気まずそうに視線を逸らすと、人差し指を唇に当てて微笑んだ。小首を傾げると、ふわふわの髪が小さく揺れる。
「内緒でス」
気になるでしょうが! それ! 何? 一体、セドリックと何があったの?
「……もしかして、ステファン様と婚約解消したらセドリック様と……とかは」
「まさカ。まだ新入生で親しい人もいないようですシ、姉代わり程度にしか思われていないですヨ」
ロミーナは笑いながら否定してくる。詳細が気になってしょうがないが、むやみに質問攻めにするわけにもいかない。
「早くご友人ができるといいですネ」
笑顔でそう言うロミーナは何も裏がなさそうに見える。相談したくて、誰かにこのことが話したくて、早くイザベラとヤコブと話がしたくてしょうがなかった。
***
授業開始時間が迫ったため、私はロミーナと別れて教室に向かった。道中、見張りをしてくれていたシヴァがすぐ後ろに控えてくれている。
先程まで喧騒に包まれていた廊下は、授業開始時間が近づいたことで生徒たちの足音が急激に遠ざかっていた。大理石の床と高い天井の空間は、急速に静寂を取り戻しつつある。今やこの広い廊下にいるのは、私とシヴァ、そして数人の急ぎ足の生徒だけだった。
「ごめんね、シヴァ。今日もイザベラとヤコブを馬車に呼ぼうと思ってるんだけど」
「分かった」
ちらりと後ろを振り返ってシヴァに話をすると、彼は静かに頷く。長い前髪で顔を隠している彼の表情はよく見えない。まあ、元々あまり表情が豊かな方ではないのだから、いつも通りに見えるだろう。しかし、私を見つめる空色の瞳が少し間を空けて逸らされる仕草は、普段はしない行動だった。彼ならば、私が目を離すまでこちらを見つめてくるのに。
「……もしかしてシヴァ、ちょっと怒ってる?」
「別に」
思えばなんだかんだと最近は忙しく、結局登下校時しかろくに話ができていなかった。自宅に着いても宿題があったり、疲れて寝てしまったりで暇はない。休日はイザベラと王妃教育のために王城へ行くので潰れてしまう。そんな中でイザベラとヤコブと話すために馬車に何度も彼らを呼ぶのは、確かに良い気がしないだろう。
そう考えを整理して、私はシヴァと向き直った。急に足を止めてこちらを振り返った私に、少し驚いたのか目を見開きつつシヴァも立ち止まる。
「お嬢様?」
「きゃっ」
私は振り返る動きを利用して、彼の目の前でわざとらしく転んでみた。シヴァは慌てて私を抱きかかえてくれる。周囲の生徒は驚いてこちらを見るが、従者から体を支えてもらっている私の様子を見てすぐに興味をなくし、その場を去っていった。
現在いつも通り女装中のシヴァは、体のラインが見えにくいよう幾重にも布を重ねたメイド服を着ていた。彼に抱きしめられると、布の柔らかさとその下の彼のしっかりした固い筋肉が感じられる。体を支えられているように見せて、私は久しぶりに思いっきりシヴァに抱き着いた。急なことで驚いたのか、シヴァの体が固まるのが分かる。そんな仕草すら可愛らしくて、私はつい笑ってしまった。
「絶対、どこかでスケジュール開けるから。そしたら、一緒にお出かけしようね」
「……お嬢様、とりあえず宥めようとしてません?」
「違うよ」
少し拗ねたように小声で言うシヴァに、私は彼の耳元にそっと唇を寄せた。
「私がシヴァにくっつきたかったの」
そう囁けば、シヴァの耳がみるみる赤くなる。顔を見ると、平静を保っているようだがここだけは嘘がつけないようだ。面白くて笑ってしまうと、シヴァに体を引き離されてしまった。私の肩を持つ手に力が入っている。
「放課後、馬車にイザベラ嬢とヤコブ様を連れてくるんですよね。分かりましたから」
早口でまくしたて、何事もなかったかのように彼は姿勢を正す。改めて私も姿勢と正すと、再び教室まで歩みを進めた。なんだか気分が良くて、スキップでもしたくなりそうになる。足取り軽く、すぐ横にいるシヴァの顔を覗き込みながら足を動かした。
「楽しみだなぁ、シヴァとのお出かけ」
「そうですね……次は転ばないよう、前を見て下さい」
「はーい」
そんなことがありつつ、私は予定通りイザベラとヤコブを馬車に呼び出したのだった。
「はイ」
「もしかして、誰かと会ったりしました?」
「えエ。セドリック様と」
原因ここだった! まさかロミーナに深入りしたことで、プロローグの裏で彼女が関わるようになっていたとは完全に予想外だ。そうなると、セドリックとロミーナが親しげに見えたのにも納得がいく。
もしかして、ロミーナがセドリックルートに進んでるの? と思うが、私はセドリックルートに関してはノータッチ。全く分からない。別に全く興味がなかったわけではなく、やろうとはしたのだ。しかし、触りだけプレイして途中でリリアンナと出会った際にシヴァが登場。シヴァ目当てに、すぐにアレクサンドルートへ転身したというのが起こったことだ。
最初の方は何だったか。確か、プロローグで図書館の出会いをした後、ちょっとずつ出会うことが増えて先輩として懐かれるんだっけ。こればかりは、ちゃんとプレイしていたイザベラや制作側のヤコブに聞くしかない。
「セドリック様と一体何を?」
気になってしまい、つい質問してしまった。ロミーナは気まずそうに視線を逸らすと、人差し指を唇に当てて微笑んだ。小首を傾げると、ふわふわの髪が小さく揺れる。
「内緒でス」
気になるでしょうが! それ! 何? 一体、セドリックと何があったの?
「……もしかして、ステファン様と婚約解消したらセドリック様と……とかは」
「まさカ。まだ新入生で親しい人もいないようですシ、姉代わり程度にしか思われていないですヨ」
ロミーナは笑いながら否定してくる。詳細が気になってしょうがないが、むやみに質問攻めにするわけにもいかない。
「早くご友人ができるといいですネ」
笑顔でそう言うロミーナは何も裏がなさそうに見える。相談したくて、誰かにこのことが話したくて、早くイザベラとヤコブと話がしたくてしょうがなかった。
***
授業開始時間が迫ったため、私はロミーナと別れて教室に向かった。道中、見張りをしてくれていたシヴァがすぐ後ろに控えてくれている。
先程まで喧騒に包まれていた廊下は、授業開始時間が近づいたことで生徒たちの足音が急激に遠ざかっていた。大理石の床と高い天井の空間は、急速に静寂を取り戻しつつある。今やこの広い廊下にいるのは、私とシヴァ、そして数人の急ぎ足の生徒だけだった。
「ごめんね、シヴァ。今日もイザベラとヤコブを馬車に呼ぼうと思ってるんだけど」
「分かった」
ちらりと後ろを振り返ってシヴァに話をすると、彼は静かに頷く。長い前髪で顔を隠している彼の表情はよく見えない。まあ、元々あまり表情が豊かな方ではないのだから、いつも通りに見えるだろう。しかし、私を見つめる空色の瞳が少し間を空けて逸らされる仕草は、普段はしない行動だった。彼ならば、私が目を離すまでこちらを見つめてくるのに。
「……もしかしてシヴァ、ちょっと怒ってる?」
「別に」
思えばなんだかんだと最近は忙しく、結局登下校時しかろくに話ができていなかった。自宅に着いても宿題があったり、疲れて寝てしまったりで暇はない。休日はイザベラと王妃教育のために王城へ行くので潰れてしまう。そんな中でイザベラとヤコブと話すために馬車に何度も彼らを呼ぶのは、確かに良い気がしないだろう。
そう考えを整理して、私はシヴァと向き直った。急に足を止めてこちらを振り返った私に、少し驚いたのか目を見開きつつシヴァも立ち止まる。
「お嬢様?」
「きゃっ」
私は振り返る動きを利用して、彼の目の前でわざとらしく転んでみた。シヴァは慌てて私を抱きかかえてくれる。周囲の生徒は驚いてこちらを見るが、従者から体を支えてもらっている私の様子を見てすぐに興味をなくし、その場を去っていった。
現在いつも通り女装中のシヴァは、体のラインが見えにくいよう幾重にも布を重ねたメイド服を着ていた。彼に抱きしめられると、布の柔らかさとその下の彼のしっかりした固い筋肉が感じられる。体を支えられているように見せて、私は久しぶりに思いっきりシヴァに抱き着いた。急なことで驚いたのか、シヴァの体が固まるのが分かる。そんな仕草すら可愛らしくて、私はつい笑ってしまった。
「絶対、どこかでスケジュール開けるから。そしたら、一緒にお出かけしようね」
「……お嬢様、とりあえず宥めようとしてません?」
「違うよ」
少し拗ねたように小声で言うシヴァに、私は彼の耳元にそっと唇を寄せた。
「私がシヴァにくっつきたかったの」
そう囁けば、シヴァの耳がみるみる赤くなる。顔を見ると、平静を保っているようだがここだけは嘘がつけないようだ。面白くて笑ってしまうと、シヴァに体を引き離されてしまった。私の肩を持つ手に力が入っている。
「放課後、馬車にイザベラ嬢とヤコブ様を連れてくるんですよね。分かりましたから」
早口でまくしたて、何事もなかったかのように彼は姿勢を正す。改めて私も姿勢と正すと、再び教室まで歩みを進めた。なんだか気分が良くて、スキップでもしたくなりそうになる。足取り軽く、すぐ横にいるシヴァの顔を覗き込みながら足を動かした。
「楽しみだなぁ、シヴァとのお出かけ」
「そうですね……次は転ばないよう、前を見て下さい」
「はーい」
そんなことがありつつ、私は予定通りイザベラとヤコブを馬車に呼び出したのだった。