【番外編更新】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ
 二人がガゼボに到着したのか、足音が止まる。けれども私は二人に振り向く事はない。そのままページをめくっていると、目の前でディロン伯爵令嬢が癇癪を起こす。

「ねえお父様! この非礼な女、なんなの?!」
 
 私の態度が気に入らないらしい。そもそも私は王国のホイートストン公爵家の娘。いくら他国だからって、公爵家の娘に噛みついて良いわけではない。それ以前にこの伯爵の態度もいまいち理解できなかった。
 私――正確に言えばブレンダではあるが――の嫁入りについては条約で決まっている事であるし、皇帝陛下の勅命でもある。
 それをズケズケと否定する娘を叱る事なく……しかも自分も一緒になって品位を欠く行動ばかり。何をしたいのだろうか? そう疑問を思っているうちに、伯爵は笑って言った。
 
「いやいや、このお方は言葉を喋る事ができない方なのだよ。優しくしてあげなさい」
「あら、お父様。そうなの?」

 目を丸くして伯爵を見るディロン伯爵令嬢。
 
「ああ、次期公爵様の隣にふさわしいのはお前だ」

 父親に言われてニコニコと満面の笑みで笑う娘と、それを見る伯爵。どちらも不気味である事には変わりないけれど……強いて言えば、娘はこの数日間で本当に公爵様を慕っていて、彼の隣に立ちたいのだという考えなのは理解した。
 彼女は貴族として生まれているのに、その在り方考え方を学ぶ事なく、今まで生きていたのだろう。その境遇を踏まえると、今の彼女の言動は納得できる。

 だが、それ以上に理解ができないのは彼女の父である伯爵だ。
 末娘が可愛いから、と何故そのまま彼女の行動を放置できるのかが分からない。そして今も娘の行動を煽るような行動を取っている。
 皇帝陛下の勅令でブレンダに扮した私と公爵様の婚約は、すでに締結されており、私は公爵様の婚約者なのだが……それを壊したいのだろうか。彼の行動を内心訝しんでいると、伯爵がニコニコと近づいてくる。
 マルセナや他の使用人を視線だけで止めた私は、引き続き本をめくった。その時――。

「お嬢様、無理にレオネル殿と結婚する必要はありません。よろしければ、あなた様は私が匿いましょう」
 
 耳元で囁かれた声。驚いた私は思わず伯爵を見る。
 私の行動で彼は満足したのか、ニヤニヤと上から下まで舐め回すように見る伯爵に嫌悪感を覚えた。そしてふと思う。何故私がこの事を公爵様に報告しない、と思うのか……そこが不思議だ。
 彼らは私の前で色々と話した後、愉快そうに帰っていく。私はそんな二人を最後まで見る事はなかった。
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