【番外編更新】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ
 私と公爵様の二人で皇族の皆様に挨拶をしてから、公爵様のお知り合いの方々へと挨拶をしていく。
 皆様私の声が出ないことをご存知なのか、反応は人それぞれだ。気遣ってくれる方々がいる一方で、薄ら笑いを浮かべるような方々もいる。ある貴族などは、自分の娘を愛人に……と笑いながら提案してきた者もいた。公爵様はいなしていたが。
 
 挨拶回りが終わると、公爵様から踊りに誘われた。
 私は侮られることがないようにと練習した笑みで誘いを受ける。周囲を確認すると、私の顔を見て瞳を見開いている者ばかり。努力が実ったと自信を付けた私は公爵様に手を取られ、踊り場へと歩いていく。

 踊りは本当に楽しい。
 公爵様との時間が合わず、一度もダンスを合わせていなかったのだけれど……何度も踊ったことがあるかのように、踊りやすかったわ。ここまで異性に触れられたのは人生で初めてだし、今後も触れるのは彼だけだろうと思う。
 
 周囲から私たちに視線が送られているのも感じていた。感嘆、羨望、そして嫉妬……これは公爵様の婚約者である私に対してでしょうね。
 
 二曲踊り終えて私たちは、他の貴族たちに場所を譲ることにした。二人で食事の置かれているスペースへと向かっている時、他の者に比べて私を氷刃で射抜くような強い視線を送る者と目が合う。そう、ディロン伯爵家の末娘……エルシーだ。
 彼女の視線は憎悪をたたえている。まるで『公爵様の隣は私のものよ』と言わんばかりに。彼女を筆頭に、後ろに何人かこちらを睨みつける者達がいた。多分……エルシーの取り巻きでしょうね。
 私は彼女達の視線に取り合うことなく、前を向く。そして公爵様と軽食を取りに向かったのだった。

 しばらくゆっくりとしていた私たちだったが、公爵様がユーイン殿下に呼び出される。謝罪する公爵様に私は口角を上げて送り出した。

 公爵様がユーイン殿下の元へ辿り着き、会話をし始める。私は二人を見つめていたその時――。

「ちょっとよろしいでしょうか? ブレンダ様」

 後ろに現れたのは、エルシーだ。後ろを向くと、そこには嘲笑を浮かべ、私を値踏みするような視線を送る令嬢達。彼女達の視線に怯むことなく、私は微笑む。

「あら、そうでしたわね。ブレンダ様は声が出せないのでしたね? それで公爵様をお支えできるのかしら?」
 
 含み笑いを浮かべてエルシーは、周囲の令嬢達に同意を求める。彼女達もエルシーの言葉に同意し、手を変え口を変え私に嫌味を浴びせてくるが……私からすれば、小鳥の囀りにしか聞こえない悪口。
 例えれば、彼女達の言葉は小さな棘の痛み。王国での言葉は刃物で刺されるような痛みだったかしら。

 私は微笑みを貼り付けて佇む。表情すら変えない私に痺れを切らしたのか、エルシーは私に近づき言い放った。

「早く公爵様を私に渡しなさいよ。あんたは素敵なお家があるのだから、帰ればいいじゃない!」

 あらあら、可愛い挑発だこと。でも残念ながら、あなたの言葉では私の心を逆撫ですることなどできないわ。だって、私はエスペランサだもの。
 私が更に深く微笑むと、エルシーは自分が煽られたように感じたらしい。扇子を持つ手が震えている。

 後ろの令嬢達はエルシーを宥めているらしく、私に構っている余裕はないようだ。
 私は軽く礼を執ってから、歩き出そうとした。その時――。

 目の前にいたディロン伯爵卿と視線が交わった。彼はニタリと悪どい笑みを浮かべている。

 ……なるほど、彼は決行するらしい。その先には牢が待っていることを知らずに。

 私に背を見せた伯爵卿は見せつけるようにゆっくりと歩く。彼は高座から見ることのできない扉から外へ出ていった。私は手に持っていた果実水を全て飲み干し、給仕に空のグラスを渡す。
 そして高座にいる公爵様へ視線を送ると、偶然彼もこちらを見ていたらしく視線が合う。遠くからで見えるかは分からないが、私は彼に向けて微笑んだ後、扉へ向けて歩き出した。
< 93 / 109 >

この作品をシェア

pagetop