この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
鏡が映す小さな綻び
そして季節は一つまた変わり、真新しいリクルートスーツをまとった社員たちを迎えるように植えられた大きな桜の木は、ピンク色の花を咲かしている。
そんな初々しい景色を横目に、私は今日も裏口からひっそりと出勤する。服装も相変わらず一張羅のベージュのパンツスーツに、インナーだけポカポカとした陽気に合わせて薄手の白いブラウスに変えてみたくらいだ。
年度の変わり目でただでさえバタバタとしている社内だが、この日は朝一番から村上くんが社長室に飛び込んできた。
「社長、早くテレビをつけてください!」
「なんだ、本当に騒がしいやつだな。望月、悪いがちょっとテレビをつけてくれないか」
まだエンジンのかからない社長に変わり、私は急いでリモコンの電源ボタンを押す。
「何だ、これは」
社長の驚いた声に、私も何事かと画面に目を向ける。
そこには
「新藤グループの新藤京子社長が結婚を発表」
というテロップが大きく映し出されていた。
新藤京子は電撃で結婚を発表した。発表まで一切外に漏れることがなかったため、メディアも極秘愛として大きく報じた。
もちろん記者の私でさえ知るすべはなく、その一報はこの場にいる全員が耳を疑うものだった。もし彼女とあのまま直接会っていたら、また浮気だとか二股だとか、ありもしない疑惑に巻き込まれていたかもしれない。
「まさか彼女が結婚するとはな。もし二人でいるところを撮られていたらと思うと、考えるだけでゾッとするよ」
思いもよらぬ事実に直面した社長は、疲れがドッと出たのか椅子の背にもたれかかり、白いワイシャツの上に羽織られた黒ジャケットのボタンを窮屈そうに一つ外し、大きく天を仰いでいる。
「僕なりに気を配っていたつもりだったんだけどね。こうなると君のいう通り、僕自身の脇の甘さが騒ぎを起こす原因だったのかもしれない。これは人前に出るのも考えものだな」
「今後もどなたかとお会いになられるご予定が?」
「ああ。広く繋がりをつくることは、社長として重要な職務だからね。三日後にも社交パーティーがある。また君の力を借りられたらいいんだが、前々から女性はそばに置かないと決めているんだ。今になってその方針を変えてしまっては、余計に怪しまれてしまうだろうな」
簡単に言うならば、私が女だから使えないということだろう。彼の言葉を聞いて、私はひらめいた。
「私が男のフリをすれば良いんじゃないでしょうか?」
「確かに、彼女なら違和感なさそうだ」
これまで反対ばかりしていた村上くんと、やっと意見が合う。
髪は顎のラインで切り揃えたショートボブ。スカートなんてもう何年も履いていない。世の女性ならイラッとくる言葉なのかもしれないが、とっくの昔に女らしさなんて捨てた私からすると、痛くも痒くもない。
でも彼だけは、どんな言葉も相手にしてこなかったのに、なぜかこればかりは容赦できないと語気を強くする。
「こら、女性になんてことを言うんだ」
やらかした張本人は大慌てで社長室から出ていく。相変わらず逃げ足だけは早い。
「ったく、すまないな。あいつもああ見えて悪いやつじゃないんだ」
「良いんです。私も自分に女っ気がないことは、良く理解していますから。むしろ、それを逆手に取りましょう」
「このパーティーは多方面からその界のトップが集まる大事な会だ。ただ人が多いということは、それだけ伴うリスクも大きい。本当に彼らの目を騙せる自信はあるのか?」
「大丈夫です。私を信じてください」
彼を騙しておきながら、信じてくださいという言葉がこんなにナチュラルに出てくるんだから。と自分の芝居力にやけに自信がみなぎる。
「そうと決まったら、見た目からどうにかしなければならないな」
スイッチが入ったように立ち上がり、頭からつま先までくまなく見渡しながら、こちらに向かって近づいてきた。
かと思えば、辛うじて全身が見渡せる距離で足を止め、私をまじまじと観察してくる。
「な、なんですか?」
そんな初々しい景色を横目に、私は今日も裏口からひっそりと出勤する。服装も相変わらず一張羅のベージュのパンツスーツに、インナーだけポカポカとした陽気に合わせて薄手の白いブラウスに変えてみたくらいだ。
年度の変わり目でただでさえバタバタとしている社内だが、この日は朝一番から村上くんが社長室に飛び込んできた。
「社長、早くテレビをつけてください!」
「なんだ、本当に騒がしいやつだな。望月、悪いがちょっとテレビをつけてくれないか」
まだエンジンのかからない社長に変わり、私は急いでリモコンの電源ボタンを押す。
「何だ、これは」
社長の驚いた声に、私も何事かと画面に目を向ける。
そこには
「新藤グループの新藤京子社長が結婚を発表」
というテロップが大きく映し出されていた。
新藤京子は電撃で結婚を発表した。発表まで一切外に漏れることがなかったため、メディアも極秘愛として大きく報じた。
もちろん記者の私でさえ知るすべはなく、その一報はこの場にいる全員が耳を疑うものだった。もし彼女とあのまま直接会っていたら、また浮気だとか二股だとか、ありもしない疑惑に巻き込まれていたかもしれない。
「まさか彼女が結婚するとはな。もし二人でいるところを撮られていたらと思うと、考えるだけでゾッとするよ」
思いもよらぬ事実に直面した社長は、疲れがドッと出たのか椅子の背にもたれかかり、白いワイシャツの上に羽織られた黒ジャケットのボタンを窮屈そうに一つ外し、大きく天を仰いでいる。
「僕なりに気を配っていたつもりだったんだけどね。こうなると君のいう通り、僕自身の脇の甘さが騒ぎを起こす原因だったのかもしれない。これは人前に出るのも考えものだな」
「今後もどなたかとお会いになられるご予定が?」
「ああ。広く繋がりをつくることは、社長として重要な職務だからね。三日後にも社交パーティーがある。また君の力を借りられたらいいんだが、前々から女性はそばに置かないと決めているんだ。今になってその方針を変えてしまっては、余計に怪しまれてしまうだろうな」
簡単に言うならば、私が女だから使えないということだろう。彼の言葉を聞いて、私はひらめいた。
「私が男のフリをすれば良いんじゃないでしょうか?」
「確かに、彼女なら違和感なさそうだ」
これまで反対ばかりしていた村上くんと、やっと意見が合う。
髪は顎のラインで切り揃えたショートボブ。スカートなんてもう何年も履いていない。世の女性ならイラッとくる言葉なのかもしれないが、とっくの昔に女らしさなんて捨てた私からすると、痛くも痒くもない。
でも彼だけは、どんな言葉も相手にしてこなかったのに、なぜかこればかりは容赦できないと語気を強くする。
「こら、女性になんてことを言うんだ」
やらかした張本人は大慌てで社長室から出ていく。相変わらず逃げ足だけは早い。
「ったく、すまないな。あいつもああ見えて悪いやつじゃないんだ」
「良いんです。私も自分に女っ気がないことは、良く理解していますから。むしろ、それを逆手に取りましょう」
「このパーティーは多方面からその界のトップが集まる大事な会だ。ただ人が多いということは、それだけ伴うリスクも大きい。本当に彼らの目を騙せる自信はあるのか?」
「大丈夫です。私を信じてください」
彼を騙しておきながら、信じてくださいという言葉がこんなにナチュラルに出てくるんだから。と自分の芝居力にやけに自信がみなぎる。
「そうと決まったら、見た目からどうにかしなければならないな」
スイッチが入ったように立ち上がり、頭からつま先までくまなく見渡しながら、こちらに向かって近づいてきた。
かと思えば、辛うじて全身が見渡せる距離で足を止め、私をまじまじと観察してくる。
「な、なんですか?」