この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
会場の外に出て、ようやく本当の冷静さを取り戻す。彼女は社長に向かってわざとグラスをひっくり返そうとしていた。接触を阻止できたのは良かったが、今の自分の姿を見ると手放しには喜べない。
「すみません。ワインをこぼしてしまって」
受付の女性に事情を話すと、親切心から17階にある一室を貸してくれることになった。さすがは日本最高峰と呼ばれるだけある。通常の客室でも五人、いや六人は泊まれそうな部屋の広さとベッドの大きさだ。
そんな部屋の豪華さに浸る余裕もないくらい、今はこの鼻を刺すアルコールの匂いから一刻も早く逃れたい。
部屋に入った足のまま真っ先に脱衣所へ直行して、ほぼ生まれたての姿になる。日に日に温かくなってきているとは言え、こんな格好をしていれば、当然ながら季節が戻ったような感覚にもなる。
そばに置かれた大きな一枚のタオルで薄ら寒さを紛らわせ、冷たい水の張った洗面器の中で、匂いのついた衣装たちを優しくこすりあわせる。そして物干し竿に並ぶように吊り下げてみるが、重くなったそれらに再び腕を通せるようになるまでは、まだかなり時間がかかりそうだ。
ようやく動きを止める余裕が生まれて、部屋の中心に堂々と置かれたキングサイズの白黒ベッドに体を預ける。軽く目を閉じると、真っ先に思い浮かんだのは社長の顔だ。
一応報告を入れておこうとスマホを取り出すが、そういえば彼の連絡先をまだ聞いたことがなかった。確かに私は彼にとって使い捨てのコマのようなもの。それは私にとっても同じこと。
連絡なんてする必要もないことに今になって気づく。もう一度深く目を閉じると、洗濯機のぐるぐると回る音が耳を刺す。
しかしそこへ突然「ガチャ、ガチャ」という音まで加わってくる。誰も使わないはずのこの部屋に…だ。この部屋を、外からこじ開けようとしている人がいる。
すぐにそう分かり、飛び起きて自分の姿を確認する。私の身体は辛うじてバスタオル一枚に包まれているだけだ。着ていたものはすべて脱衣所の中にある。最上階の一番角にあるこの部屋から、どんな大声で叫んだって誰も助けになんて来れやしない。
私は得体の知れない訪問客への恐怖心に耐えながら、整えられたベッドの中に潜り込み、震えを抑えるように指をきつく繋ぎ合わせながら、ただ目をギュッと瞑ることしかできない。
「望月、望月」
なぜか私の名前を呼ぶ声がする。ベッドの中から少しだけ顔を出して、恐る恐る声の主を確かめると、目の前には見知った顔がある。
「社長……」
激しく鳴り響いていた鼓動も、小刻みに動いていた指の震えも落ち着き、恐怖心がスッと引けていくのがわかる。
「すみません。もう大丈夫ですから」
言葉ではどんな風にも言い繕えるが、その姿はあまりにも惨めな物だった。
「どう見たって、大丈夫なわけないだろ」
彼はこちらをはっきりと見ないように配慮してくれているのだろう。その顔はずっと壁を向いたままだ。そして彼の温かさがほのかに残る黒のジャケットを当たり前のように渡してくる。
「ほら、これ」
冷えたワインを全身から被ったからだろうか。その温かさが冷え切った身体にとても良く染み渡る。
代わりに鮮明になった逞しい肩が、上下に激しく動いているのが目に入る。
「もしかして、走ってきたんですか?」
「当たり前だ。目の前であんなことがあって、普通でいられる方がおかしいだろう」
「すみません」
「君が謝る必要はないよ。僕をかばってくれたんだから」
「良かったです。最悪の事態にならなくて」
そうだ。いち早く彼女のことを伝えなければ。でも何から話そうか。目の前で起こった出来事をいまいちど整理していると、思いがけない言葉が安心した身に降りかかってくる。
「なぜ君は、僕のためにそこまでする?」
「え?」
「もしかして、まだ何か知りたいことがあるんじゃないのか?」
「すみません。ワインをこぼしてしまって」
受付の女性に事情を話すと、親切心から17階にある一室を貸してくれることになった。さすがは日本最高峰と呼ばれるだけある。通常の客室でも五人、いや六人は泊まれそうな部屋の広さとベッドの大きさだ。
そんな部屋の豪華さに浸る余裕もないくらい、今はこの鼻を刺すアルコールの匂いから一刻も早く逃れたい。
部屋に入った足のまま真っ先に脱衣所へ直行して、ほぼ生まれたての姿になる。日に日に温かくなってきているとは言え、こんな格好をしていれば、当然ながら季節が戻ったような感覚にもなる。
そばに置かれた大きな一枚のタオルで薄ら寒さを紛らわせ、冷たい水の張った洗面器の中で、匂いのついた衣装たちを優しくこすりあわせる。そして物干し竿に並ぶように吊り下げてみるが、重くなったそれらに再び腕を通せるようになるまでは、まだかなり時間がかかりそうだ。
ようやく動きを止める余裕が生まれて、部屋の中心に堂々と置かれたキングサイズの白黒ベッドに体を預ける。軽く目を閉じると、真っ先に思い浮かんだのは社長の顔だ。
一応報告を入れておこうとスマホを取り出すが、そういえば彼の連絡先をまだ聞いたことがなかった。確かに私は彼にとって使い捨てのコマのようなもの。それは私にとっても同じこと。
連絡なんてする必要もないことに今になって気づく。もう一度深く目を閉じると、洗濯機のぐるぐると回る音が耳を刺す。
しかしそこへ突然「ガチャ、ガチャ」という音まで加わってくる。誰も使わないはずのこの部屋に…だ。この部屋を、外からこじ開けようとしている人がいる。
すぐにそう分かり、飛び起きて自分の姿を確認する。私の身体は辛うじてバスタオル一枚に包まれているだけだ。着ていたものはすべて脱衣所の中にある。最上階の一番角にあるこの部屋から、どんな大声で叫んだって誰も助けになんて来れやしない。
私は得体の知れない訪問客への恐怖心に耐えながら、整えられたベッドの中に潜り込み、震えを抑えるように指をきつく繋ぎ合わせながら、ただ目をギュッと瞑ることしかできない。
「望月、望月」
なぜか私の名前を呼ぶ声がする。ベッドの中から少しだけ顔を出して、恐る恐る声の主を確かめると、目の前には見知った顔がある。
「社長……」
激しく鳴り響いていた鼓動も、小刻みに動いていた指の震えも落ち着き、恐怖心がスッと引けていくのがわかる。
「すみません。もう大丈夫ですから」
言葉ではどんな風にも言い繕えるが、その姿はあまりにも惨めな物だった。
「どう見たって、大丈夫なわけないだろ」
彼はこちらをはっきりと見ないように配慮してくれているのだろう。その顔はずっと壁を向いたままだ。そして彼の温かさがほのかに残る黒のジャケットを当たり前のように渡してくる。
「ほら、これ」
冷えたワインを全身から被ったからだろうか。その温かさが冷え切った身体にとても良く染み渡る。
代わりに鮮明になった逞しい肩が、上下に激しく動いているのが目に入る。
「もしかして、走ってきたんですか?」
「当たり前だ。目の前であんなことがあって、普通でいられる方がおかしいだろう」
「すみません」
「君が謝る必要はないよ。僕をかばってくれたんだから」
「良かったです。最悪の事態にならなくて」
そうだ。いち早く彼女のことを伝えなければ。でも何から話そうか。目の前で起こった出来事をいまいちど整理していると、思いがけない言葉が安心した身に降りかかってくる。
「なぜ君は、僕のためにそこまでする?」
「え?」
「もしかして、まだ何か知りたいことがあるんじゃないのか?」