この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
まるで私たちを出迎えるように部屋はポンと明るくなり、またいくつものドアを素通りして、一つの広大な部屋に差し当たる。区切るものもないその部屋には、今にでも自由に走り回りたくなるような開放感があった。
ぐるりと囲むように並ぶガラス窓の向こうには暗闇の寂しさを慰めるように星屑たちが輝いていて、恥を隠すように俯いてばかりいた私は、ようやく都会の夜の明るさに気付かされる。
真っ白な天井や壁紙とは対照的に、部屋中の家具は黒一色で揃えられていて、色味といった色味が全くない。本当に人が暮らす家なのかと疑いたくなる。到底リラックスできる空間には思えないから。まるで田舎から出てきたばかりの小娘のように、経験したことのない光景に吸い込まれてしまいそうだ。
住み慣れた彼にとっては、こうした空間の中でも、まとった鎧を脱ぐことができるのだろうか。窓の外に目をくれることもなく、すでに黒いジャケットは彼の体から離れて、白シャツの袖も無造作にまくられている。
今は黒大理石のアイランドキッチンに立って、コーヒーを淹れているらしい。頭上から注ぐ間接照明の光でそんな些細な瞬間も、まるでドラマのワンシーンのようだ。
彼のそばで働くうちに分かったことがある。息抜きにコーヒーを淹れるのがどうやら習慣らしい。何か見慣れた光景がどんどん広がっていく感じがして、緊張の糸もスルスルと解けていく。
でもそれは、私の身勝手な願望にすぎなかった。
「僕、あそこまでしてくれって頼んだ?」
「えっ…?」
「絶対に良くやった、とか言わないからね。こんなことされたって、嬉しくもなんともないから」
私はこのときまで、自分の目に入れたいものだけを信じていたらしい。マグカップを持つ彼の手に、いつもより強い力が加わっていると、今になって気づく。
でも私がいなかったら、明日には北里麗花との婚約がまるで事実であるかのように隅々まで広まり、恐らく彼はまたありもしない噂に苦しめられることになっていただろう。成果を認められるならまだしも、私はなぜ怒られているのか、さっぱり分からない。
「君にとって、その身体は目的を達成するための道具でしかないのか?」
「なんだ、そんなことですか」
「今そんなこと、と言ったか?」
「ええ。社長も私に言いましたよね。人の心配してる場合か、って。それは社長にも言えることですよ。私は所詮、社長をリスクから守るために雇われている身。それ以外に、私の存在理由はないんですから」
先ほどまでの愚かな自分にも言い聞かせてやりたい。そう、これは自分への戒めだ。
「リスク……ね」
「話はそれだけですか?社長の方こそ、いくら私がこんな格好をしているからって、むやみやたらに他人をご自宅にあげない方がいいですよ。誰が何と言おうと、あなたは東条グループのトップなんですから」
私は一度も腰を下ろすことなく、今にも突きつけられそうな激昂から逃げるようにドアノブに触れる。
でも彼はそんな易々と逃げさせてはくれなかった。手首を固く縛り付けるその指先に、私の逃げ足は止められてしまう。
「なんで?なんで君は、そんな何もなかったみたいにできるわけ……?」
ぐるりと囲むように並ぶガラス窓の向こうには暗闇の寂しさを慰めるように星屑たちが輝いていて、恥を隠すように俯いてばかりいた私は、ようやく都会の夜の明るさに気付かされる。
真っ白な天井や壁紙とは対照的に、部屋中の家具は黒一色で揃えられていて、色味といった色味が全くない。本当に人が暮らす家なのかと疑いたくなる。到底リラックスできる空間には思えないから。まるで田舎から出てきたばかりの小娘のように、経験したことのない光景に吸い込まれてしまいそうだ。
住み慣れた彼にとっては、こうした空間の中でも、まとった鎧を脱ぐことができるのだろうか。窓の外に目をくれることもなく、すでに黒いジャケットは彼の体から離れて、白シャツの袖も無造作にまくられている。
今は黒大理石のアイランドキッチンに立って、コーヒーを淹れているらしい。頭上から注ぐ間接照明の光でそんな些細な瞬間も、まるでドラマのワンシーンのようだ。
彼のそばで働くうちに分かったことがある。息抜きにコーヒーを淹れるのがどうやら習慣らしい。何か見慣れた光景がどんどん広がっていく感じがして、緊張の糸もスルスルと解けていく。
でもそれは、私の身勝手な願望にすぎなかった。
「僕、あそこまでしてくれって頼んだ?」
「えっ…?」
「絶対に良くやった、とか言わないからね。こんなことされたって、嬉しくもなんともないから」
私はこのときまで、自分の目に入れたいものだけを信じていたらしい。マグカップを持つ彼の手に、いつもより強い力が加わっていると、今になって気づく。
でも私がいなかったら、明日には北里麗花との婚約がまるで事実であるかのように隅々まで広まり、恐らく彼はまたありもしない噂に苦しめられることになっていただろう。成果を認められるならまだしも、私はなぜ怒られているのか、さっぱり分からない。
「君にとって、その身体は目的を達成するための道具でしかないのか?」
「なんだ、そんなことですか」
「今そんなこと、と言ったか?」
「ええ。社長も私に言いましたよね。人の心配してる場合か、って。それは社長にも言えることですよ。私は所詮、社長をリスクから守るために雇われている身。それ以外に、私の存在理由はないんですから」
先ほどまでの愚かな自分にも言い聞かせてやりたい。そう、これは自分への戒めだ。
「リスク……ね」
「話はそれだけですか?社長の方こそ、いくら私がこんな格好をしているからって、むやみやたらに他人をご自宅にあげない方がいいですよ。誰が何と言おうと、あなたは東条グループのトップなんですから」
私は一度も腰を下ろすことなく、今にも突きつけられそうな激昂から逃げるようにドアノブに触れる。
でも彼はそんな易々と逃げさせてはくれなかった。手首を固く縛り付けるその指先に、私の逃げ足は止められてしまう。
「なんで?なんで君は、そんな何もなかったみたいにできるわけ……?」