この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
変われなかった〜side宗高〜
急な訪問に驚かせてしまったのだろうか。先代がこの家にやって来たときから、文乃の様子は明らかにおかしかった。初めて会ったときみたいに、小さな手が弱々しく震えていて…。
「宗高」
もう頭の中は文乃のことでいっぱいだったのに、隣から聞こえるその声は何よりも大事なはずの気持ちさえ、無理やりにも別のものへと向けさせる。
「何ですか」
「婚約の話、断ったらしいな」
「ええ、まず面識もありませんし」
「面識?そんなもの必要ないだろう。この婚約は、新事業参入のために、またとないチャンスとなる。それだけで十分だ。お前は、北里麗花と結婚しなさい」
「けっ…こん?」
まるで全て決まりきった事後報告のようにそれらを淡々と伝えてくる。
まだグループの全決定権が彼の手にあったとき、見ず知らずの女性とのあらぬ噂を聞きつけた僕は、世間に真実を伝えたいんだと、いつものように頭を下げて頼み込んだ。でも、その人は僕の目を見ようともせず、鼻で笑ってこう言った。
「何も取り柄がないんだから、注目を集められるだけ良かったじゃないか」と。
だから、ありもしない噂を流し、嘘の報道を執拗に広めていたのが父だと知ったときも、別にあえて問いただしたりもしなかった。
僕には生まれたその瞬間から、何も知らないふりをしながら父の操り人形として生きるしかないのだと、本気でそう思って生きてきたから。
でも僕はもう替えの効かない、この世にたった一人しかいない、その相手を自分の力で見つけたのだ。誰に動かされるわけでもなく、初めて自分の心が勝手に動き始めたんだ。
「僕にはできません」
生まれてから一度も口応えをしたことのない息子が、まさかこんな答えを返してくるとは思わなかったのだろう。
お互いが腹の中を探り合うような、ヒリヒリとした静けさが部屋中を包み込む。
「お前は、一体結婚をなんだと思っている?」
「それは、好きな人と…」
「いい加減にしろ!」
思いっきり振り上げた父の手が、僕の頬にうずくような痛みを残す。ああ、そうだった。僕はこの人に何を言っても、敵いやしないんだった。
唐突な暴力で力関係を理解させ、追い打ちをかけるように耳を鋭く突く声で怒号を浴びせて、相手の心をとことん疲弊させるやり方。あの頃からなにも変わっていない。文乃と出会ってから、なんだか随分と心が強くなれた気がしていたが、変わっていないのは、未だそんな声に怯え続ける僕も一緒だ。
「お前は東条グループの社長だぞ?そんな惨めな生き方をするな」
「惨め…ですか」
「また、昔みたいに失ってからでないと気づかないのか?」
父がおじさんの話を持ち出してくるのは、こうやって僕を縛り付けたいときだけだ。
一番触れられたくない傷だと分かっていながら、わざとそこをえぐるように狙ってくる。だから僕はいつもその傷をかばうように、従うしかなくなるのだ。
「あの子だけは、あの子だけには絶対に手を出さないで」
あの子一人くらいどうにでも出来ると言わんばかりに、散々痛めつけてきた忌々しい手が僕の左肩に無神経にのしかかってくる。
やっと、父に罪を償わせられる。やっと、父の呪縛から逃れられる。もう、あと少しのところまできた。でも、ここまでしても、僕の根本は何も変わらないらしい。もう脅威に怯える必要なんてないはずなのに体の震えは、うずくまって押さえつけないとどうにかなりそうなくらいに、今もずっと止まらない。
僕には彼女しかいないんだと堂々言ってやれなかったことが、何よりも惨めでならない。惨め、本当に惨めだ。父の言うとおり。
「宗高」
もう頭の中は文乃のことでいっぱいだったのに、隣から聞こえるその声は何よりも大事なはずの気持ちさえ、無理やりにも別のものへと向けさせる。
「何ですか」
「婚約の話、断ったらしいな」
「ええ、まず面識もありませんし」
「面識?そんなもの必要ないだろう。この婚約は、新事業参入のために、またとないチャンスとなる。それだけで十分だ。お前は、北里麗花と結婚しなさい」
「けっ…こん?」
まるで全て決まりきった事後報告のようにそれらを淡々と伝えてくる。
まだグループの全決定権が彼の手にあったとき、見ず知らずの女性とのあらぬ噂を聞きつけた僕は、世間に真実を伝えたいんだと、いつものように頭を下げて頼み込んだ。でも、その人は僕の目を見ようともせず、鼻で笑ってこう言った。
「何も取り柄がないんだから、注目を集められるだけ良かったじゃないか」と。
だから、ありもしない噂を流し、嘘の報道を執拗に広めていたのが父だと知ったときも、別にあえて問いただしたりもしなかった。
僕には生まれたその瞬間から、何も知らないふりをしながら父の操り人形として生きるしかないのだと、本気でそう思って生きてきたから。
でも僕はもう替えの効かない、この世にたった一人しかいない、その相手を自分の力で見つけたのだ。誰に動かされるわけでもなく、初めて自分の心が勝手に動き始めたんだ。
「僕にはできません」
生まれてから一度も口応えをしたことのない息子が、まさかこんな答えを返してくるとは思わなかったのだろう。
お互いが腹の中を探り合うような、ヒリヒリとした静けさが部屋中を包み込む。
「お前は、一体結婚をなんだと思っている?」
「それは、好きな人と…」
「いい加減にしろ!」
思いっきり振り上げた父の手が、僕の頬にうずくような痛みを残す。ああ、そうだった。僕はこの人に何を言っても、敵いやしないんだった。
唐突な暴力で力関係を理解させ、追い打ちをかけるように耳を鋭く突く声で怒号を浴びせて、相手の心をとことん疲弊させるやり方。あの頃からなにも変わっていない。文乃と出会ってから、なんだか随分と心が強くなれた気がしていたが、変わっていないのは、未だそんな声に怯え続ける僕も一緒だ。
「お前は東条グループの社長だぞ?そんな惨めな生き方をするな」
「惨め…ですか」
「また、昔みたいに失ってからでないと気づかないのか?」
父がおじさんの話を持ち出してくるのは、こうやって僕を縛り付けたいときだけだ。
一番触れられたくない傷だと分かっていながら、わざとそこをえぐるように狙ってくる。だから僕はいつもその傷をかばうように、従うしかなくなるのだ。
「あの子だけは、あの子だけには絶対に手を出さないで」
あの子一人くらいどうにでも出来ると言わんばかりに、散々痛めつけてきた忌々しい手が僕の左肩に無神経にのしかかってくる。
やっと、父に罪を償わせられる。やっと、父の呪縛から逃れられる。もう、あと少しのところまできた。でも、ここまでしても、僕の根本は何も変わらないらしい。もう脅威に怯える必要なんてないはずなのに体の震えは、うずくまって押さえつけないとどうにかなりそうなくらいに、今もずっと止まらない。
僕には彼女しかいないんだと堂々言ってやれなかったことが、何よりも惨めでならない。惨め、本当に惨めだ。父の言うとおり。