この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
「どうしたんですか、この頬!」
「はぁ…なんで今振り向くかな」
本当になんで振り向いたんだろう。頭の中では彼を陥れる覚悟はあっても、いざ目の前で弱っているところを見れば、簡単に手を差し出してしまうなんて。
「君が心配するようなことは何もないから。北里麗花と本当に婚約させられそうでね。でも、そんなこと絶対にーー」
彼は、確かに「婚約させられそう」と言った。そうか、そこには彼の意思はないということか。良かった、その言葉を聞けただけで、もう十分だ。私は本来の居場所に戻るように来た道に向かって一歩、また一歩と後ずさる。
「どうしたの?」
彼に正式な婚約者が出来たから別れる。それも気持ちに区切りをつける立派な理由じゃないか。
「そういうことなら、仕方ないですね…」
着実に後退していたはずなのに、両肩に彼の力が加わって、強引に出口から遠ざけられてしまう。
でも彼の指先は、それはもう弱々しく震えていて、もう私を支えるほどのカは残っていなかった。私はその有り余る衝撃を吸収するように、彼はそんな私を僅かな力で閉じ込めるように、大理石調の洗面化粧台に互いの手をかける。彼の震える指が私の肌をかすめたとき、季節柄にもないその冷たさに驚かされた。
「仕方ない、ってどういう意味?」
これは私が絞り出した、嘘偽りのない別れの一言、のはずだった。でも彼は、まるで離れていた恋人同士が互いの存在を確かめ合うように、力いっぱいに抱きしめてくる。白いTシャツが張り付いて浮かび上がった地肌から、彼の腕のきつさを生々しいほどに感じる。
「知ってる?どんな些細な一言でも、君の言葉が僕を何よりも強くさせてくれるって。ほんっとうに良かった、君からその言葉が聞けて」
きっと、今の彼の力は、この瞬間だけの胎い力だ。私が彼の胸を軽く押すだけで、その力はまたさっきみたいに弱まってしまうに決まっている。
「もう、ここまでです。社長にも、決められた相手がいるんでしょう?」
「確かに他のことだったら、すぐ諦めていただろうね。でも君に関しては、やっぱりその選択肢はないから」
彼と距離を作るために胸に手を置いたはずなのに、まるでそんな必要なんてないと言わんばかりに、執拗に指を絡ませてくる。
でも、今日もやっぱりそれ以上は何も起こらない。空気が変わり出す前に、分かりやすく私から背を向けて、シャワールームの中に逃げ込んでいく。
「シャワー、出しておくから。体温めておいで」
彼の方がよっぽど青白い顔が痛々しく、まるで憔悴し切ったようにずっとうつろな目をしているのに。
婚約者がいる事実を一度知ってしまえば、私だってそれをなかったことにはできない。でも彼が私を無条件に信じてくれたように、私も一度くらい彼を信じてみたい。一度だけでも良いから、この気持ちを形で残してみたかった。
本当なら私も彼がしてくれたみたいに、手首をギュッと強く掴んで行かないで、離れないでと訴えてみたい。でも私にはそこまでする資格は毛頭ない。目も合わせないで、ただニットの編み目を軽く引っ張って、私の存在を教えることしかできない。
「何?この手?」
私には今までみたいに傷つくことを恐れる時間すら残っていない。もうどの道、壊れるのは決まっていることなんだから。
「言ったよね。君の手には、僕を壊す力があるんだよって。君だって、その意味分かるでしょ?」
私はただでさえ、これから彼に恨まれる存在になる。今、何を言ったって、きっと後にはすべて嘘になってしまうのだろう。でも今日までの日々は、決して偽りにはしたくない。だから初めて彼の誘いに応えるように、指先に力を入れる。
「そうだね。今が壊れるときなのかもね....…」
「はぁ…なんで今振り向くかな」
本当になんで振り向いたんだろう。頭の中では彼を陥れる覚悟はあっても、いざ目の前で弱っているところを見れば、簡単に手を差し出してしまうなんて。
「君が心配するようなことは何もないから。北里麗花と本当に婚約させられそうでね。でも、そんなこと絶対にーー」
彼は、確かに「婚約させられそう」と言った。そうか、そこには彼の意思はないということか。良かった、その言葉を聞けただけで、もう十分だ。私は本来の居場所に戻るように来た道に向かって一歩、また一歩と後ずさる。
「どうしたの?」
彼に正式な婚約者が出来たから別れる。それも気持ちに区切りをつける立派な理由じゃないか。
「そういうことなら、仕方ないですね…」
着実に後退していたはずなのに、両肩に彼の力が加わって、強引に出口から遠ざけられてしまう。
でも彼の指先は、それはもう弱々しく震えていて、もう私を支えるほどのカは残っていなかった。私はその有り余る衝撃を吸収するように、彼はそんな私を僅かな力で閉じ込めるように、大理石調の洗面化粧台に互いの手をかける。彼の震える指が私の肌をかすめたとき、季節柄にもないその冷たさに驚かされた。
「仕方ない、ってどういう意味?」
これは私が絞り出した、嘘偽りのない別れの一言、のはずだった。でも彼は、まるで離れていた恋人同士が互いの存在を確かめ合うように、力いっぱいに抱きしめてくる。白いTシャツが張り付いて浮かび上がった地肌から、彼の腕のきつさを生々しいほどに感じる。
「知ってる?どんな些細な一言でも、君の言葉が僕を何よりも強くさせてくれるって。ほんっとうに良かった、君からその言葉が聞けて」
きっと、今の彼の力は、この瞬間だけの胎い力だ。私が彼の胸を軽く押すだけで、その力はまたさっきみたいに弱まってしまうに決まっている。
「もう、ここまでです。社長にも、決められた相手がいるんでしょう?」
「確かに他のことだったら、すぐ諦めていただろうね。でも君に関しては、やっぱりその選択肢はないから」
彼と距離を作るために胸に手を置いたはずなのに、まるでそんな必要なんてないと言わんばかりに、執拗に指を絡ませてくる。
でも、今日もやっぱりそれ以上は何も起こらない。空気が変わり出す前に、分かりやすく私から背を向けて、シャワールームの中に逃げ込んでいく。
「シャワー、出しておくから。体温めておいで」
彼の方がよっぽど青白い顔が痛々しく、まるで憔悴し切ったようにずっとうつろな目をしているのに。
婚約者がいる事実を一度知ってしまえば、私だってそれをなかったことにはできない。でも彼が私を無条件に信じてくれたように、私も一度くらい彼を信じてみたい。一度だけでも良いから、この気持ちを形で残してみたかった。
本当なら私も彼がしてくれたみたいに、手首をギュッと強く掴んで行かないで、離れないでと訴えてみたい。でも私にはそこまでする資格は毛頭ない。目も合わせないで、ただニットの編み目を軽く引っ張って、私の存在を教えることしかできない。
「何?この手?」
私には今までみたいに傷つくことを恐れる時間すら残っていない。もうどの道、壊れるのは決まっていることなんだから。
「言ったよね。君の手には、僕を壊す力があるんだよって。君だって、その意味分かるでしょ?」
私はただでさえ、これから彼に恨まれる存在になる。今、何を言ったって、きっと後にはすべて嘘になってしまうのだろう。でも今日までの日々は、決して偽りにはしたくない。だから初めて彼の誘いに応えるように、指先に力を入れる。
「そうだね。今が壊れるときなのかもね....…」