雨宮さん家の大型犬〜飼い主は最愛のわんこを何時でも愛でていたい〜
夜遅くなるとしても、何時もなら、こんなに遅くなることなんて一度もなかった。
私の事なら、なんでもすぐに察してくれた。
それなのに、それなのに。
ここの所、全部のパズルが上手く当て嵌まらない。
私は、その事実が凄く悲しくて、しーちゃんの顔を見る事なく、ノンブレスでそう伝えると、リビングを後にして、自分の部屋に入った。
辛い。
なんで、こんなに苦しいんだろう。
しーちゃんは、私のモノなのに。
しーちゃんは、私だけのモノなのに。
如何して、その間に誰かを入れるような事を、平気でするの…?
じわり、視界が滲むけど、泣いたら負けだと思い直して、私は意識を無理やり手放した。
そして迎えた朝。
気分は最悪でも、ちゅんちゅんと小鳥はさえずり、空は容赦なく明るくなってしまう。
私は、鳴り響くアラームを消してから、はぁ、と一つ溜息を吐いて、姿見を入念に見つめて身支度をする。
しーちゃんと、顔合わせたくないなぁ。
あぁ…こんなにも、学校に行くのが憂鬱なのは、初めてかもしれない。
そして、二階の部屋からリビングにとんとんと、一階に降りていくと、其処には垂れ耳をしょんぼりさせたような顔をした、しーちゃんがソファーに縮こまっていて、私を見るなり、声を掛けて来ようとする。
なんとなく、気まずい感じがあって、無言でいると、しおらしく一言、
「あの…ごめんね?」
とだけ言われた。
ねぇ?
それは、何に対しての謝罪なの?
私はそう言いそうになって、言葉を飲み込んだ。
だって、喧嘩をしたいわけじゃない。
このまま、拗れたくもない。
だから、私もなるべく平穏な笑顔を浮かべて、
「ん。私もごめん。シチュー、食べれた?」
と、声を掛ける。
すると、ぱぁーっとしーちゃんの顔が輝いて、私をぎゅーっと抱き締めてくる。
あぁ、やっぱりしーちゃんの腕の中は落ち着く。
同じ匂いがする筈なのに、しーちゃんから漂う香りに包まれると、心から温かくなる。
「うん!あこちゃんのシチュー、すっごく美味しかった!二杯もおかわりしちゃった!」
「くすくす…えー?あの量を?しーちゃんてば何時にも増して食いしん坊だ」
「だってー!滅茶苦茶美味しかったんだもーん」
そう言いながら、私の肩辺りにふわふわの髪をぐりぐり押し当ててくる。
「ふふ、わーかった!じゃ、今夜は何食べたい?」
「オムライスー!」
「好きだよね、オムライス。じゃあ、帰りにたまご買って帰らなきゃなー」
そう言って、スマホに買い足す物をメモしていると、そんな私のおでこに、ふに、と柔らかな感触が落ちて来た。
「…しーちゃん?なーに?」
「んー…昨日一緒に眠れなかったでしょー?おやすみなさいのちゅー、出来なかったから」
えへへ…不意打ちー!
なんてはしゃぐしーちゃんに、毒気が抜ける。
「じゃあー…お返しに、おはようのちゅー!」
と、私から頬に口唇を落とせば、ぶわっと赤くなったしーちゃんは、
「ずるーい!あこちゃんってば不意打ち禁止!」
と、文句を言って、今度は私の口元にキスを落とした。
「もー…恥ずかしいなぁ」
「二人きりなんだもん!いいでしょ?」
同居してからの習慣になっていても、やっぱり朝からキスをされるのは照れ臭くて、腕の中に閉じ込められたまま、いやいやをする私の耳元に、「かわいー」なんて囁いて、今度は少しだけ深いキス。
「あこちゃん、だーいすき!」
「くすくす、私もだーいすき」
と、傍から見たら砂糖がザラザラ吐けるくらいのラブラブショーを繰り広げてから、ささっと朝食を二人で仲良く食べて、それから玄関のドアを開いた。
「ねー?しーちゃん?」
「んー?」
「今日は、私の事…誰よりも優先にしてくれる?」
指を絡めて、寄り添いながら通学路を歩く途中、ちょっぴり重かったかなー?と思いつつもそうチラりと、隣にいるしーちゃんを見ると、いきなり、両手で顔を覆ってしゃがみこんだ。
「えっ!?し、しーちゃん?!」
「…もー!あこちゃんってば、そう言う可愛い事、突然言わないで!」
「だって…しーちゃんが傍にいないと、寂しいし…」
ぷく、と私は不満をぶつける。
そんな私を、指の隙間から見るしーちゃんは、耳まで真っ赤で…ぶつぶつと、「これだから無自覚小悪魔は」「可愛すぎるだろ」「天使か」とか色々と言っているけど、なんだかすっごい恥ずかしいから、腕を無理やり組んで、しーちゃんの事を立たせると、もう一度指を絡ませて、
「ほら!行くよー!遅刻しちゃう!」
と、先を急かした。