リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
アーヴェンヌ公爵家は代々王家に使える家系にあり、頭脳明晰な人材が多いことから文官として活躍している。その中でも現当主ダニエル・アーヴェンヌは国王の懐刀と呼ばれる補佐であった。ベッカー伯爵家とは雲泥の差である。
そんなアーヴェンヌ公爵家には、フランクと深い因縁があった。
「――ごめんあそばせ。待ち時間が惜しいのでこちらから来て差し上げましたわ」
執事の後ろから、コツコツとヒールの音を鳴らして一人の女性が入ってきた。品のある金色の髪をまとめ上げ、水色の瞳で青ざめた顔のフランクを見据える。
彼女こそアーヴェンヌ公爵の妻、バネッサ・アーヴェンヌ。
フランクの前妻であり、アルカディア王国初の女宰相だ。
「ごきげんよう、浮気者の元旦那様?」
「バネッサ……我が家に勝手に立ち入るなど、どういうつもりだ!」
「十数年ぶりの再会なのに変わらないわね、フランク。私だけでなく、家族を裏切ったあなたがどの面を下げて戻ってきたのかしら?」
「この……っ!」
不敵な笑みを浮かべる彼女に何も言い返すことができず、フランクは唇を噛んだ。
バネッサとは家同士の政略結婚だったが、フランクの不倫がきっかけで一年足らずで離縁した。
高飛車に見える外見に引き換え、沈着冷静に物事を判断し、正論で丸め込む強気なバネッサ。普段から嫉妬や鬱陶しさを抱いていたこともあり、フランクは自分の有責を認めようとはしなかった。リシェルを執拗に毛嫌いしていたのも、バネッサの存在がちらつくからだろう。
そんなこともあって、フランクにとってバネッサはいわゆる天敵だった。他人を言葉で惑わす魔法も、彼女には一切通用しない。
「使用人を一新したと風の噂で聞いていたけれど……屋敷を維持するのに精一杯ってところね」
「……用はなんだ? 王命ということは宰相として来たんだろうが、どちらにせよアポイントメントは取ってからにしてほしいものだな」
悠々自適に世間話を始めるバネッサに、フランクは冷静さを徐々に取り戻していく。
(大丈夫、いつも通りにすれば問題ない)
離縁後、バネッサが数ヶ月もしないうちにアーヴェンヌ公爵と再婚したことは風の噂で聞いた程度で、以来彼女と対峙したことは一度もない。それでも交渉術には磨きをかけてきたのだ。あの頃のようにはならないと、自分を奮い立たせた。
そんなアーヴェンヌ公爵家には、フランクと深い因縁があった。
「――ごめんあそばせ。待ち時間が惜しいのでこちらから来て差し上げましたわ」
執事の後ろから、コツコツとヒールの音を鳴らして一人の女性が入ってきた。品のある金色の髪をまとめ上げ、水色の瞳で青ざめた顔のフランクを見据える。
彼女こそアーヴェンヌ公爵の妻、バネッサ・アーヴェンヌ。
フランクの前妻であり、アルカディア王国初の女宰相だ。
「ごきげんよう、浮気者の元旦那様?」
「バネッサ……我が家に勝手に立ち入るなど、どういうつもりだ!」
「十数年ぶりの再会なのに変わらないわね、フランク。私だけでなく、家族を裏切ったあなたがどの面を下げて戻ってきたのかしら?」
「この……っ!」
不敵な笑みを浮かべる彼女に何も言い返すことができず、フランクは唇を噛んだ。
バネッサとは家同士の政略結婚だったが、フランクの不倫がきっかけで一年足らずで離縁した。
高飛車に見える外見に引き換え、沈着冷静に物事を判断し、正論で丸め込む強気なバネッサ。普段から嫉妬や鬱陶しさを抱いていたこともあり、フランクは自分の有責を認めようとはしなかった。リシェルを執拗に毛嫌いしていたのも、バネッサの存在がちらつくからだろう。
そんなこともあって、フランクにとってバネッサはいわゆる天敵だった。他人を言葉で惑わす魔法も、彼女には一切通用しない。
「使用人を一新したと風の噂で聞いていたけれど……屋敷を維持するのに精一杯ってところね」
「……用はなんだ? 王命ということは宰相として来たんだろうが、どちらにせよアポイントメントは取ってからにしてほしいものだな」
悠々自適に世間話を始めるバネッサに、フランクは冷静さを徐々に取り戻していく。
(大丈夫、いつも通りにすれば問題ない)
離縁後、バネッサが数ヶ月もしないうちにアーヴェンヌ公爵と再婚したことは風の噂で聞いた程度で、以来彼女と対峙したことは一度もない。それでも交渉術には磨きをかけてきたのだ。あの頃のようにはならないと、自分を奮い立たせた。