リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜

 それ以来、ルーカスは王城でバネッサ宰相を筆頭に闇商会の調査とベッカー夫妻の事故の再調査を進め、リシェルは王立図書館に勤めながらフランクが取引している情報と、婚約者の実家であるギルバート家の内部事情を探ることが決まった。

 テオバルドは隣国に戻って放映機などの魔道具を作ると同時に、アルカディア内をさらに動きやすくするために、留学中に借りていたテオ・グランドのまま文官として在籍していた。

 そして三年ものの月日をかけて決定的な証拠がそろった時、リシェルが自らフランクと直接対決がしたいと申し出があった。
 これにはルーカスもテオバルドも大反対した。

『どうしてそんなに無茶をするの? これはもう君一人の問題じゃない。ソクラ草は国の重要植物として管理が徹底されている。ベッカー家が管理しているソクラ草だって、国が栽培したものと代わりはない』
『重々承知しています。しかし、ギルバート家にもセルペンテ商会の魔の手が迫っているとしたら、無関係である領民が巻き込まれる可能性があります。それだけは避けなければなりません!』
『君の伯父が持っている魔法――言葉で惑わす魔法に対抗するあてはあるのかい?』
『私では難しいと思います。でもお一人だけ……おそらく彼女ほどの好敵手はいないでしょう。彼女には、私から闇商会の情報を渡します。だから、私に何かあった時はバネッサ様に――』
『リシェル!』

 途端、テオバルドがリシェルの両肩を掴んで遮った。
 焦りの表情を浮かべる彼女の翡翠の瞳が揺らいでいる。怖くないわけがない。今から自分がやろうとしていることは、今まで一族が行ってきた功績をすべて崩壊させることなのだから。

『落ち着け。焦りすぎだ』
『でも誰かがやらなくちゃ、この連鎖は終わりません! ベッカー家だけじゃない、エミリも……大切な妹まで手駒にされて、黙っているわけにはいきません!』
『それとこれとは話が別だ。お前だけが犠牲になる必要はどこにもない!』
『でも!』
『俺が――グランヴィルがお前を守る』
『え……?』
『一芝居打つぞ。落ち着くまではグランヴィルの民として暮らせ。君をこんなところで終わらせてたまるものか』

 いいよな、と目線で訴えてくるテオバルドを見て、ルーカスは察した。
 テオバルドがリシェルに惹かれていることはずっと前から気付いていた。身分を隠しているとはいえ、周囲から怪訝されてきた彼に唯一話しかけてきたのは、リシェルだけだったのだから。

(恋に盲目とはまさにこのことか)

 ルーカスは呆れながらも、二人の意志をしっかり受け止めた。
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