リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
◇
それから月日が流れ、現在。
ルーカスの目の前にいる凛々しい表情を浮かべる女性はリシェル・ベッカーそのものだった。
しかし、リシェルと呼んでも彼女は口元に笑みを浮かべるだけ。ルーカスは「ああそうか」と納得しながら続ける。
「すまない。ヘレナ嬢と呼んだ方がいいかな」
「……お久しぶりです、ルーカス王太子殿下。ヘレナ・エヴァンスでございます」
ようやく口を開いたリシェル――改め、ヘレナはカーテシーをする。それを見て、ルーカスとテオバルドは目を合わせて笑った。
「人払いをさせたし、以前作ってもらった魔道具で音声はすべて遮断している。この場にいる私達以外には聞こえないから、気兼ねなく話してくれ」
「よかった、上手く機能しているようだな。では茶の用意を……」
「テオバルド様、それは私が」
「おっと……すまない。文官の頃の癖が抜けないな」
さも当然とティーポットを持つテオバルドに、思わず二人は笑みを浮かべた。テオ・グランドと名乗り文官として働いていた頃は、よく茶の用意をしていたようだ。
「いや、客人にお茶を出させるなんてよくないな」
「お気になさらないでください、ルーカス殿下。やらせてくださいませ」
ヘレナがお茶の用意をしている間、ルーカスは今までのことを思い返した。