リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜

 芝居を打つと決めた際、リシェルに事故の偽装を提案したのはルーカスだった。ならばとリシェルとテオバルドが下見で事故付近を訪れた際、見慣れない赤い花弁を見つけたのが、今回の事故原因を探るのに重要なきっかけだった。

 不思議に思ったリシェルが、グランヴィルにある薬草研究所で花弁を調べたところ、それがある魔草の成長した姿であることがわかり、その特徴から意図的に馬車が壊れた可能性を見出したのだ。
 ルーカスは当初、生き急ぐ彼女を説得させるために提案しただけだったが、まさか過去の事故の真相に辿り着くことになるとは。

「偶然、ですか。あなたのその魔法をもってしても」
「残念だけど本当に偶然だよ。きっと、君達の執念に引っ張られて出てきたんだろうね」

 テオバルドの言葉に、ルーカスは苦い笑みを浮かべた。
 ルーカスもリシェルと同じ、魔法を持たずに生まれてきた無能な子だった。だからこそ、学園に在籍していた間にリシェルと意気投合し、切磋琢磨して周囲の批判を押しのけて今日まで切り抜けてきた。そんな彼が魔法に目覚めたのは、リシェルが復讐をしたいと名言した時だった。
 未来を断片的に読み取る『予知』――それが、ルーカスの魔法だ。

「私はね、この世界が持つ魔法は、人の欲と同じだと思う時があるんだ」
「と、いいますと?」
「魔術も魔導書も、魔力があれば使えるが、魔法だけは一人ひとつしか持つことができない。しかも限定されたものばかりだ。不思議だと思わないかい? これは私の推測にすぎないのだけれど、潤いを保つことや他人を惑わせること、そして人の真意を見抜くことも……他にもまだまだあるだろうが、それらは皆、各々が己に求める理想ではないか、と。それが魔力と混じり合い、【魔法】と化した。そう考えると、人の欲を甘く見てはいけないなと思ってしまうんだ」
「だが、人間は欲深いものではないか?」
「そうだね。私も、大切な友人を助けたい一心だった。……あの頃から少しは使えるようになっているといいな。このアルカディアを、よりよい国にしていくためにもね」
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