リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
気の知れた間柄とはいえ、結婚の報告なら手紙などの通達で十分のはずだ。ルーカスが問えば、ヘレナは口を開いた。
「さすがですね、殿下。実はベッカー家と、ギルバート家の現状についてお伺いしたかったのです。三年前に没落したのは聞きましたが、その後動きがあったのなら、知りたくて……」
「……わかった。私が知っていることを話そう」
ルーカスは順にフランクやベンジャミンの現状について、そして少しでも彼女が安心できるのならと、田舎に越したギルバート夫妻や祖父母に当たるベッカー夫妻のことも伝えた。
ヘレナは時折スカートを握る手が強くなるが、終始真剣な表情でルーカスの話を聞いて相槌を打っていた。
「そして、エミリ嬢のことは、研究所にも報告が上がっている通りではあるんだけれど」
そこまで言いかけて、ルーカスは一度言葉を区切った。
ソクラ草を使った薬物キャンディを過剰摂取したエミリ・ギルバートの病状については、グランヴィルの薬草研究所にも逐一報告されてきた。今はバネッサ・アーヴェンヌ公爵夫人が、宰相の仕事の傍らで彼女の様子を見ている。
ルーカスの手紙や視察から戻ってきたテオバルドの話を聞いても、ヘレナは気が気ではなかったようだ。
「バネッサの話では、順調に回復しているそうだよ。君が作った回復薬のお陰で、当初のような暴走の兆候は見られないと聞いている。近いうちに、修道院に身を寄せることになる。もう二度と、あのキャンディには手を出すことはないだろう」
その言葉を聞いて、ヘレナはホッと胸を撫でおろした。幼い頃から従妹の孤独に気付いていたはずなのに、伯父の手から助け出せなかった後悔をずっと持ち続けていたのだろう。安堵の笑みを浮かべた彼女は、ほんの一瞬だけ従姉に戻ったような気がした。
「エミリは被害者だが、人を傷つけたことに変わりはない。それは当人もわかっている。でなければ『お姉様、ごめんなさい』なんて、寝言は言わないよ」
「そうですか。……きっと、従姉も安心していることでしょう」
「フランクとベンジャミンはこの先、生きた心地はしないまま生涯を終えることになるだろう。――これですべて、君の思惑通りの結果になったというわけだが……結局のところ、リシェルは何がしたかったんだい?」
「……それはどういう意味ですか?」