リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
紅茶を一口含んだルーカスは、改めてヘレナと向き合う。翡翠の瞳は以前と変わらず、強い意志がひしひしと伝わってくる。
「彼女が立てた計画が、こんなにもトントン拍子で進むとは想定外だった。それは自分のことしか考えないフランクやベンジャミンの破滅はもちろん、僕の予知の発動も、セルペンテ商会を一網打尽にできたこともね」
「……あら、まぁ」
ヘレナは目を見開き、頬に手を添えながらわざとらしく驚いた。
三年越しの計画には裏があることは明確だろう。それはテオバルドも知りたいことでもあり、ヘレナに目線を向ける。
「ご期待に沿えず申し訳ございませんが、すべては彼らの自滅ではありませんか」
「そうだね。これは欲が抑えられなかった者達による自滅にすぎない。しかし、八歳で絶滅危惧植物を復活させた『アルカディアの才媛』――そんな君が、ソクラ草の中毒性に気付かなかったはずがない。それは、君のご両親も同じだったはずだ」
「と、いいますと?」
「君がソクラ草を復活させたことで、ハンクとオリビアは尻拭いをせざる得なくなったのではないかい?」
九年前の事故が起きる前、ハンクとオリビアが隣国に向かったのは、商談という体で、実は薬草研究所に赴いていたことがわかった。おそらくソクラ草の栽培方法を確立させたと同時に、中毒性の危険性に気付いたのだろう。
遺品の中にその資料を見つけたリシェルはベッカー家で管理しているソクラ草の個体数が減っていることに気付き、フランクが闇商会と取引している情報をつかんだのでは――と、ルーカスは考えている。
しかし、それを伝えてもヘレナの表情は一向に変わらない。
「殿下のご想像にお任せいたしますわ」
「意地が悪いな。こうなることをすべて予測していたのなら、君は少々悪趣味ではないかい?」
「あらあら、お言葉ですが、そのような想像をしてしまう殿下こそ、趣味が悪いのでは?」
「……ベッカー家を根絶やしにすることができて、その復讐心は満たされたかい、リシェル?」
ルーカスの悪い問いかけに、ヘレナは小さく笑って答える。
「さぁ? リシェル・ベッカーはもういないのですから、私の知ったことではございません」