リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
エピローグ
 アルカディア王国にあるアーヴェンヌ領の小高い丘に、小さな墓石が建っている。
 寂れた場所だが、その墓石の周辺にはさまざまな花束が置かれており、小さな花畑ができあがっていた。

「――久しぶり。ようやく会えたね」

 そう小さく呟いたのは、カスミソウでまとめた花束を持ったヘレナ・エヴァンスだ。
 幼少期は修道院で育ち、グランヴィルではエヴァンス伯爵家の養子となった彼女は以来、王弟テオバルドの管理下にある薬草研究所で働いている。ヘレナの実力は研究所だけでなく、王家も目を見張るほどの才能の持ち主であり、『アルカディアの才媛』と謳われたリシェル・ベッカーに匹敵するのではと噂されている。しかし、テオバルドの意向により表に出ることがほとんどないため、彼女の存在は国内はおろか、近隣各国にも周知されていない。

 そんなヘレナがテオバルドと婚約し、新たな移住先である辺境伯領へ向かう前に立ち寄りたいと言って連れてきてもらったのが、この丘だった。場所が場所だけにテオバルドは渋ったが、少し離れたところで見守ることにした。
 ヘレナはその場にしゃがみ込むと、墓石にかかっている砂や落ち葉を軽く払った。先程よりも読めるようになったリシェル・ベッカーの名をそっと触れ、ヘレナは目を閉じた。

(……ここまで長かったわね)
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