リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
リシェル・ベッカーの人生は十九年で幕を閉じた。
整った環境下ですくすくと成長し、周囲から愛される日々を送っていた彼女は、魔法を持たずして生まれた無能な子と後ろ指を刺されても、自身の努力を認めてくれる家族や使用人、友人がいればそれでよかった。
だからこそ、リシェルの努力が大切な人々を追い詰める結果になるとは思いもしなかったのだ。
八歳で見つけたソクラ草の中毒性に、リシェルが気付かなかったはずがない。万能薬でも、使用を間違えれば時に毒に成り代わるのだ。
国王への報告を前に、リシェルは参加してくれた研究員らにこのことを伝えたが、これは絶滅危惧種の危機を救った重要事例。不可能とされていた栽培方法を確立させ、多くの土地で量産できる目処が立ったばかりだ。
ソクラ草があれば、病に苦しむ多くの国民が救えるだけでなく、王家からの膨大な報酬が手に入る。この機会を逃す手はない。
『リシェル嬢の見間違いではありませんか? ソクラ草は、万能薬なのですから!』
大人の力に子どもが敵うはずがない。ましてや、リシェルは世間一般では、魔法を持たない無能な存在というレッテルが貼られている。ただでさえ、子どもの我儘に付き合っているような状態なのだ。研究者達は皆、リシェルの下で働かされている状況が面白くなかった。
どんな根拠を提示しても、研究員らの判断は変わらないとわかったリシェルは、すぐさま両親に相談した。
ハンクとオリビアは戸惑ったが、リシェルが書き留めた資料やソクラ草の実物を目にし、娘の話を信じることに決めた。そこで、ハンクはすぐに隣国グランヴィルの力を借りることにした。魔道具の研究が進んだことで、より細かいものまで調べることができるグランヴィルの薬草研究所なら、誰もが納得する確証を得られるかもしれない。
ちょうど、別件で商談や招待された夜会もある。家族三人は揃って向かおうとした。
しかし出立の日、リシェルが熱を出してしまったのだ。
悔しくて泣きじゃくる娘に、両親は優しく微笑んだ。
『自慢の愛娘が頑張って見つけた研究だ。絶対無駄にはしないよ』
『リシェル、いい子で待っていてくださいね』
『……お父様、お母様。行ってらっしゃい』
――両親の訃報を聞いたのは、その数日後のことだった。