リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜

 以来、リシェルは笑い方を忘れてしまった。フランクとエミリがやってきた時も、ベンジャミンが婚約者となった時も、リシェルはこころの整理がつかないまま、無気力な日々を送っていた。
 自分が動けば大切なものを失うと思うと怖かった。それでも、探究心には敵わないし、興味が湧いたものは調べないと気が済まない。
 幸いしたのは、フランクはリシェルを必要以上に縛り付けることはしなかったことだ。当主として動いてくれているのを知っていたし、ベンジャミンとの縁談も、ベッカー家の役に立てればと思って了承した。

 そんな日々が続いていたある日、フランクの執務室の前を通った際、商談にやってきたセルペンテ商会の人間との会話をうっかり盗み聞いてしまったのだ。

『ベッカー家のソクラ草は大変素晴らしいですね。次も頼みますよ』
『ええ、もちろん。亡き弟夫婦の娘が頑張って見つけた金儲けです。存分に使わせていただきますよ。セルペンテ商会とは長くお付き合いしていきたいですからね』
(……そんな、そんなのって)

 リシェルは頭が真っ白になった。
 セルペンテ商会は黒い噂が絶えない。商会が薬物キャンディをばら撒いていたことも、すでに中毒症状を発症している者がいることも、新聞や勤め先の図書館でよく目にしていた。
 さらに調べていくと、双方の付き合いはリシェルが生まれるずっと前からあった。

(……もしかして、全部仕組まれたものだった?)
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