リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
リシェルは、両親の事故をただの事故だとは思っていない。グランヴィルへ旅立つ一年前、馬小屋で馬車の修理に来たという、サムと名乗った業者がいたが、存在しないことをその後に知った。
こじつけかもしれないが、両親や祖父母がフランクのことをよく思っていなかったことを踏まえると、故意に仕組まれたものではないかとよぎってしまう。
もし、あの事故がベッカー家を乗っ取るためのものだとしたら。
もし、フランクが本格的に商会と手を組んだら、すぐにベッカー家の名を使って商会が有利になるような体制を作るはずだ。
しかし、商会に関することはそれだけではなかった。
さらに調べていくと、ベンジャミンが利子付きで金を何度も借りていることがわかった。使用目的はすべて従妹のエミリへのプレゼントだ。
エミリは自分が不義の子だと知って以来、リシェルのものをねだるようになった。最近はベンジャミンとも距離が近い。おそらく奪う気なのだろう。
ベンジャミンがどれほどセルペンテ商会と繋がりがあるかは不明だが、捨て駒同然の扱いを受けるに違いない。それは、エミリも同じだ。
(エミリまで失いたくない……っ、でもどうすれば防げる? どうしたら、あの子を助けてあげられる?)
両親を亡くし絶望に打ちひしがれるリシェルの心を支えてくれたのは、いつも慕ってくれていたエミリの存在が大きい。
そこで思い立ったのが、ベッカー家を没落させることだった。フランクだけを引きずり下ろしても、きっとまた這い上がってくる。彼の手腕であれば、自ら商会を立ち上げることだってできたにもかかわらず、わざわざベッカー家に戻ってきたのは、爵位が欲しかっただけだからではないはずだ。
ならば、彼が一番欲していたものを終わらせてしまえばいい。
(これ以上、お父達が守ってきたベッカー家を汚すわけにはいかない。例え誰かに恨まれようとも、私が終わらせてみせる)
――それが、リシェル・ベッカーとしての最後の仕事だと悟った。