リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
「ようやく終わったよ」
墓石の下は空っぽであることを、ヘレナは知っている。だからこれは独り言でしかないのだが、ヘレナには目の前にリシェル(彼女)がいるように思えてならない。
「これ、殿下から預かったの。返しておくね」
そう言って花束とともに墓石の上に置くと、立ち上がってテオバルドのもとに向かう。
学園時代、グランド伯爵家の養子であるテオとして留学していた彼は実に寡黙な人だった。王太子であるルーカスと行動をともにしていたこともあって周囲の目は厳しく、孤立していた彼に唯一話しかけたのが、リシェルだったのだ。
ルーカスから事前にテオが隣国の王弟であることは聞いていたし、両親が最後に向かった場所だったグランヴィルに興味もあった。私欲のために利用しているような、いたたまれない気持ちもあったが、次第に彼の誠実さに惹かれていく自分がいた。
『俺が――グランヴィルがお前を守る』
まっすぐで鮮明な赤い瞳に見据えられて告げられた言葉に、じんわりと胸の奥が温かくなったのを、今でも覚えている。
そして現在、彼の隣にいられることが一番の喜びだ。